プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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新説「ガリバー旅行記には御伽草子の影響がある」-伝播説の魅惑と眉唾

 かの有名な『ガリバー旅行記』(イギリスで1726年刊)が、日本の御伽草子のうち『御曹司島渡』『蓬莱山』(室町時代に成立)の影響を受けているのではないか、との説が発表されるらしい。

(⇒ 中日新聞 2019年11月7日記事:ガリバーに御伽草子影響か 「小人の島」などに共通点)

 
 私は、こういう話が大好きである。

 そして他の人も(特に男性は)、こういう話に興味を持つ人はとても多いのではなかろうか。

 「こういう話」を一言でまとめると、それは「伝播説」となる。

 中南米の古代「ピラミッド」は実は古代エジプトのピラミッドが構想的・技術的に伝播したのではないか――

 というような伝播説は、特に男子のロマンDNAや不思議好きドーパミンを否応なく分泌させるものだ。

 ただ私は、「新説」伝播説には、まず眉にツバを付けて聞くべきだと思っている。 

 それはちょうど、妙に魅力的に見える女性にはまず気をつけるべきだ、(たとえば性格的な)裏があるかもしれないと疑ってかかるべきだ、というのに似ている。

 なぜなら伝播説は、あまりにもしばしばトンデモ論説を生み出してきたし、今もこれからも生み出し続けていくに違いないからである。

 
 この伝播説の極北と言えば、真っ先に「木村鷹太郎」という人名を思い出す。

 詳しくはウィキペディアなどを見ていただければいいが、彼の主張するところによれば――

古代ギリシアの『オデュッセイア』は、平家物語太平記を元にして書かれた

●あのシェイクスピアの『ハムレット』は、日本神話の影響で書かれた

 のだそうだ。

 そしてこれよりは穏健で、しかも時代を超えて何度も繰り返し現れてくる伝播説と言えば、前にもこのブログで書いた「扶桑説」だろう。

tairanaritoshi-2.hatenablog.com


 今回の報道記事では、なぜガリバー旅行記御伽草子の影響を受けているかもしれないというと――

●『御曹司島渡』では、源義経兵法書を求めて小人の島、巨人の島、馬人の島などを訪れている

●『蓬莱山』の絵巻物では、空中に浮かぶ島や宮殿が描かれている

 から、らしい。

 あまりに短い報道記事からだけで、こんなことを言うのは気が引けるが……

 はたしてこれは、どこか遠くの国のお話から伝播しなければ書けないような、着想できないような内容だろうか。

 私にはむしろ、中国の『山海経』なんかから影響を受けた、という方がありそうに思える。

 いや、イギリスなどヨーロッパ諸国で、別にそれ以外の世界の影響なんか全く受けていない人が、誰でも独自に思いつきそうな着想に思える。

 自分の住んでいる世界から遠く離れた世界には「胸に顔が付いている人間」なんかが住んでいる、なんて着想は、洋の東西を問わずいくらでもあった。

 空に浮かぶ島や宮殿がある、というのも、伝播でなければちょっと思いつかない発想とは言いがたいのではないか。

 
 そういえば、17世紀フランスにはシラノ・ド・ベルジュラックという人がいたが――

 この人は、SFの先駆けとされる『月世界旅行記』『月と太陽諸国の滑稽譚』などを書いている。

 はたしてこれは、すなわち月には地球人と違う人間が住んでいるという着想は、日本の『竹取物語かぐや姫)』に影響を受けているのだろうか。

(いや、こういう説はこれから本当に出てきそうではある……)


 ただ伝播説の皆が皆、怪しげなものだとはもちろん言えない。

 だいいち「日本神話とギリシア神話には共通点がある、伝播の可能性がある」と真面目に論じて(あるいは示唆して)いるのは、

 日本の神話学の大御所的存在である大林太良 氏であった。

 また、江戸時代の日本の浮世絵が、同時代の西洋の画家に影響を与えていたというのは、もはや国民的常識のようなものとなっている。

 
 いずれにせよ伝播説の魅力は――特に思いがけない伝播関係であればあるほど――、いつまで経っても色褪せないものがある。

 ちなみに私が最も興味のある伝播説とは、「弓矢」という武器がどこに始まってどう伝わったのか、それとも世界の複数地域で独自に発明されたのか、というものである。