10月31日、東芝がアニメ「サザエさん」のスポンサーを来年3月末で降板する調整に入っていることが報じられた。
経営危機に揺れる東芝である。
そして「サザエさん」は一般家庭向けの番組なのだが、最近の東芝は白物家電分野を売却し、今後はインフラ事業に力を入れる方針である。
一般家庭にインフラ事業のCMを流しても仕方ないと言えば、そのとおりかもしれない。
よってこういう「冗費」を切ることは必要なのだろうが――
これはやはり、「東芝の凋落」をいよいよ世の中に印象づけることになるだろう。
これでお茶の間(こういう言い方も古いが)から東芝の名は消え、一般人にはあんまり馴染みのない社名の仲間入りをすることになるだろう。
こういうのが人材(新入社員)集めに与える影響は、たぶん我々が思うより大きいと思われる。
(しかしその影響度は、測ることができない。)
あの往年のクイズ番組「クイズダービー」(故・大橋巨泉の司会)で、ロート製薬がどれほど知名度を上げたか――
そしてその結果どれほど人材を惹きつけ入社させることができたのかは、「そうしなかった場合」の効果が測れない以上、ほとんど永遠の謎である。
また単純に、1969年(!)の放送開始から約48年にも渡って続いてきたスポンサードとCMが終わるというのは、やはり寂しいものだ。
(この降板に“便乗”して「サザエさん自体の放送打ち切りを望む声」も上がっているというが、これについては別に書くかもしれない。)
さてこれを受け、いち早く後継スポンサーに名乗りを上げたのが――
近年とみに旭日昇天の勢いの、高須クリニック院長・高須克弥氏である。
高須クリニックと言えば、最近は印象的なCMを流している。
高須院長がヘリでドバイ上空を飛び、ドバイのお偉いさん(という設定だろう)と会議する、例のCMである。
(蛇足だが、漫画家の西原理恵子も「漫画家 西原理恵子」という文字解説付きで出演している。
本当に、高須院長と仲良くなったおかげで一躍セレブになった女性漫画家である。)
私はこのCMを見たとき、アッという間に「例のCM」を思い出した。
同じような人は、日本全国に百万人くらいはいたと思われる。
その「例のCM」とは、あの「落合信彦のアサヒスーパードライ」のCMである。
両者を見比べてみると、バブル絶頂期の1989年前後から30年近く隔てているにも関わらず、気味が悪いほど酷似しているのに気づくと思う。
ともに「ヘリに乗り(降り立ち)」、「重要人物らしき人と商談」をし、世界を股にかけるスーパービジネスマンのイメージを醸し出している。
きっと高須クリニックのCMを制作した人たちも、この類似には明らかに気づいていたのではなかろうか?
そして今回の高須クリニックのCM、高須院長の意向(希望)が存分に働いていただろうことは、全然想像に難くない。
はっきり言ってこれは、高須院長にとって悪い兆候である。
落合信彦が今現在はどのような評価をされているかは別として(ネットを調べてもらうとして……)、
自分が自分をスーパービジネスマン役や“大物”役としてCMを作り、それをテレビに流すなどというのは――
一般的・常識的・歴史的には、栄耀栄華の絶頂から転落・没落へ至るフラグが立ったということになる。
こういうことは、あのホリエモンこと堀江貴文氏さえもやらなかったことである。
たぶん高須クリニックの重役陣にも「いやあ、こういうことはあんまりやらない方がいいんじゃないですか……」と内心思っている人はいただろうが――
しかし院長に向かってそう言える人はいないのだろう、というのもまた、容易に想像できることだ。
それはそれとして今回の高須クリニックのCMは――
高須院長(と西原理恵子)が世界を飛び回るスーパービジネスマン・ビジネスセレブであること以外には、
「いったい何を訴えようとしているのかわからない」(このCMだけで高須クリニックが美容整形を営んでいるなんてことが、どこの視聴者にわかるだろうか)
という、マーケティングの世界では最もやってはならないことの一つをやってしまっているCMである。
これに比べれば落合信彦のスーパードライCMの方が、はるかにわかりよいことは確かである。
しかしこういう「意味不明CM」の方が、時を超えて人の記憶に残りやすいというのもまた、確かである。
今から30年後の世の人は、今の私が「落合信彦CM」を懐かしむように、「高須院長のCM」を憶えているのかもしれない。
ほとんど全てのCMが忘れ去られていくことを思えば、これは一種の「偉業」である。
そこまで計算して高須院長が今回のCMを演じたのだとすれば――
これは現代において、「昔の王様が自分の記念碑・戦勝碑を建てた」のと同じく、「記憶の記念碑を建てた」という意味に解するべきだろうか?