室町幕府の初代将軍、足利尊氏の顔が(肖像画の発見によって)ついに判明したという。
尊氏と言えば、あの「馬に乗って、長い剥き出しの刀身を背中に載せたザンバラ髪の男」の肖像画のイメージが強烈である……
が、その肖像画が実は尊氏ではないのではないかという話は何十年も前からあり、現代ではそれが定説になっていた。
その定説がどうやら、新肖像画の発見により確実になった格好だ。
(とはいえ、リンク記事の「騎馬武者像」と「新肖像画」を見比べてみても、それが全然別人だとは言い切れない気もする。
日本で西洋のような緻密な人物画法が発展しなかったのは、実に残念である。)
どうも尊氏の顔の特徴は、「大きな鼻」と「垂れた目」らしい。
それが一番はっきり現れているのは「木像足利尊氏座像」(大分県の安国寺所蔵)だと思うが――
しかしその木像の顔、何とも言えない冴えない顔だとまず感じる。
もしこの人がスーツを着ていたら、誰もこの人が仕事のできる人だとは思わないだろう。
正直どう見ても、「いい歳してウダツの上がらないショボいおっさん」の顔である。
しかし実はこの人が武家の棟梁で幕府の始祖だというのだから、世の中わからないもの、人は見かけによらないものだ。
そして新肖像画の方は、それとは違ってなかなか誠実で頭も良さそうな顔に見える。
私には正直、「木像足利尊氏座像」と「騎馬武者像」が同一人物だと言われれば納得するが――
「木像足利尊氏座像」と「新肖像画」が同一人物だと言われる方が、「いやいや、全然別人じゃねぇか」と感じられるほどである。
これは前々から思っていたことだし、他にも多くの人が思っているはずだが――
いったいに日本や中国の肖像画は、誰が誰だか区別が付かないのが多いのである。
いや、みんな同じじゃねぇかと腹さえ立ってくるのである。
(特に中国の「線画のような」人物画がひどい。線画風でなくても、『歴代帝王図鑑』なんかを見て顔の区別が付く人ってそんなにいるだろうか。)
もっとも日本や中国に限らず、古代エジプトや古代ギリシャだって人の顔はみんな(それこそ測ったように)同じである。
しかし、(たぶん)西洋だけがそういう絵から抜き出て、今から見ても見事としか言いようがない――写真より優れてるんじゃないかと思うくらい――人物画法を確立した。
これだけでこんなことを思うのもどうかと思うが、やはり西洋が世界を制覇したのは当たり前だったし、しかも(ひょっとしたら)それが一番良かったのではないか、とも思えてくるのである。