プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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ケネディ暗殺機密文書、一部を除き全面公開-負け組のヒーローとしてのオズワルド

 10月27日から、機密指定されていたケネディ暗殺記録の公開が始まった。

 ただし一部の記録は依然非公開で、あと180日間で検討して公開するかどうかを決めるという。

 この日の直前までトランプ大統領は「例外なしで全面公開する」気だったようだが、CIAとFBIの反対によりそれは断念したそうだ。

www.newsweekjapan.jp


 こういうことになると当然、「やっぱりCIAやFBIなどアメリカの情報機関は、ケネディ暗殺に関与していたのだ」という陰謀論が強くなってくる――

 と言うより、陰謀論者の信念がますます強くなってくる」のは間違いない。

 しかし今回公開される文書の内容が、たとえたいしたことなかったとしても――つまり情報機関などの関与が全く示されていなかったとしても――、

 情報機関のやっていたことや外国政府に探りを入れたことなどがそこに書かれているのなら、それはやっぱり公開に慎重になるだろう。

 そしてまた180日後に全文書が公開されたとしても、これがオズワルド以外の誰かが関与した事件であるとの疑惑ないし「そうあってほしい」願望は、ずっとずっと持たれ続けることだろう。

 ケネディ暗殺事件とは、世界中の人間を惹きつける“魅惑の事件”なのである。

 

 さて、ケネディ暗殺が(米政府の公式見解どおり)リー・ハーヴェイ・オズワルド(享年24歳)の単独犯なのか、

 それともアメリカ軍部・情報機関、マフィア組織、外国政府らの関与があった陰謀なのか、その場合実際は誰が首謀者なのかは、

 熱心な(しかも夥しい数の)研究者・日曜研究者の間でさえも意見が分かれているのだから、なまなかなことでは判断が付かない。

(この点、邪馬台国論争とソックリである。)


 しかしここでは、「オズワルド単独犯説」が真実だとしてみよう。

 これは私には、「陰謀説」よりはるかに衝撃的で意義深いものと感じられる。

 なぜか。

 それはこの事件が、「負け組の、勝ち組に対する史上最大の勝利」ということになるからだ。


 仮に陰謀説が真実だとしても、それは言ってみれば「よくあること」「ありそうなこと」である。

 思想・方針の違いや権力欲求により、「国の最高指導者に不満を持つ政府内の連中が最高指導者の暗殺を企てる」とか、

「外国政府が敵対政府のトップを殺そうとする」とか言うのは――

 普通の人が聞いても「そりゃ、そういうこともあるだろう」と、割とすんなり納得できるものではないか?


 しかしこれが、そこらの一般人が本当に単独でやったことだとなると話は違う。

 オズワルドは、一言で言って「負け犬の青年」であった。

 その生活は極貧であったとも言われ、生涯でただ一度タクシーに乗ったのは、暗殺当日に現場から離れ帰宅するときだったとも言われる。

(とはいえ、オズワルドがそこらにいくらでもいる低所得者の一人に過ぎなかった、というわけでもない。

 なにしろオズワルドはアメリカ人なのにロシアへ亡命し、そこで嫁をもらって再びアメリカに戻っている。

 私は詳しく知らないが、あのキューバ危機時代の冷戦期にこんな経歴を持つアメリカ人って、彼一人くらいではなかったか?

 この一事をもってしても、陰謀論が根も葉もない妄想話とは言い切れないものがある。)


 これは現代日本の言葉で言えば、「負け組」とか「底辺」とかいう言葉が最もふさわしいだろう。

 しかしその彼が、世界最大最強最富裕の国の元首、アメリカ大統領をたった一人で狙撃して殺したのである。

 しかもそのアメリカ大統領は――

 名門の出で、

 大金持ちで、

 若くして世の頂点を極め(暗殺当時46歳)、

 エレガントな美人の妻を持ち、

 大衆に大人気の、

 負け組の自分とは正反対の雲の上の男であった。


 そして政府見解が正しいとするなら、オズワルドはたった3発の発射でケネディの喉を後ろから貫き、側頭部を吹っ飛ばして暗殺を完遂した。

(一発だけ外れ、それが路面に跳ね返ってできた破片で、見物人のジェームズ・テーグが頬に怪我をしている。)

 これは、オズワルドに「史上最高の狙撃手」との称号を与えるのに充分な事実であると思われる。

 むろん有名な狙撃手シモ・ヘイヘフィンランド)などは、542人も撃ち殺した世界記録を持っている。

 それに対してオズワルドはたった1人だが、しかしその対象は(こう言っては何だが)有象無象の名もなき兵士たちでなく、アメリカ大統領である。

 オズワルドの知名度シモ・ヘイヘをはるかに凌ぐし、歴史に与えた影響も桁違いなのは言うまでもない。

 オズワルドは「史上最高の狙撃手」であり、「負け組の勝ち組に対する記念碑的・金字塔的勝利をもたらした英雄」でもある――

 そういう見方は、もしかすると今の日本でこそ広く受け入れられるような気がする。


 そう、はっきり言って――

 ケネディ暗殺が闇勢力の底知れぬ陰謀によるものだったということよりも、「負け犬の単独犯」であったということの方が、はるかにずっと意義深くてエキサイティングな見方なのである。


 オズワルドは、これからの新時代の「ヒーロー」になる可能性が充分にあると思われる。

 もし彼の単独犯と立証される日が来たとすれば、ますますそうなると思う。

 そして「オズワルドに憧れる負け組」「オズワルドを目標とする負け組」が――

 政治的動機からでは全然なく、 

 歴史に名を残したいから、

 カタルシスとエクスタシーを感じたいから、

 若くして名をなす勝ち組の誰かを殺す、という事件もけっこう頻繁に起こりそうなものだと思う。


 そしてその対象は、別に首相とか政治家でなくたっていい。

 テレビに出ている有名人(スポーツ選手でもタレントでもいい)であれば、それなりに歴史に名を残せるだろう。

 そういう人らを狙撃するのは、首相を狙撃するよりははるかにたやすそうである。

 これは陰謀論などより、ずっとずっと恐ろしいことである……