プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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“扇風機にあたるカリフ”バグダーディ死亡? どうなるイスラム国

 唐突なニュースだが、イスラム国(IS、ISIS)の最高指導者と目されるアブーバクル・バグダーディ(45歳)が死亡したらしい。
 しかも殺ったのはロシアの空爆だという。
 6月16日のロシア国防省発表によると、5月28日未明にシリア北部のラッカ(イスラム国の首都)南郊を空爆した際、バグダーディが死亡した可能性があるとのこと。(確定とは言っていない。)
 この空爆最初からIS指導部の会合を狙った(無人偵察機で情報入手)ものだというから、この死亡情報が真実だとすれば、まさに“ジャストミート!”“ナイスショット!”の類いである。
 さらに他の幹部たち、中堅野戦指揮官ら約30人、警護戦闘員ら約300人も一緒に撃滅したらしいので、文句の付けようもない大戦果だと言える。
 思えば第二次世界大戦末期、ナチスドイツの首都ベルリンへ先に到達しヒトラーを自殺に追い込んだのも、ソ連であった。
 そして2017年の現在、またもアメリカを差し置いてロシアが敵大将の首を挙げたことになる。
 政治的な影響なんかはさておくとして、純粋に軍人としてアメリカ軍の将兵は、さぞ悔しがっていることだろう。 

 こういうニュースが流れると決まって大量に出てくるのは、
「これでテロが終わるわけじゃない」
「最高指導者を殺しても、いくらでも次が出てくるだけ。何の解決にもならない」
 といった否定的な――シニカルというか、斜(はす)に構えたというか――言説である。
 しかしこれについては、以前の記事でやや詳しく書いたことがある。

 カリスマ的な大将を殺せば、その部下たちは必ず分裂・抗争する。
 これは絶対法則であって、避けることはまずできない。
 テロが終わらないのは事実だろうが、今までだってイスラム国は「個人の通り魔殺人」と全然変わらない「テロ」を自分がやったと称してきたのだから、そりゃテロが終わるわけないのは当たり前である。
(この世からイスラム過激派が完全消滅したとしても、トラックを暴走させて人殺しする奴は絶対にいる。)
 これからイスラム国がいくつかの小派閥に分裂すること、それらが互いに戦闘し始めるのはほぼ確実で――
 そうなると彼らの唱える「大義」も、説得力が分解されて薄まってしまうだろう。
 重要なのは、織田信長死後に秀吉と柴田勝頼が争って秀吉が覇権を握ったように、分裂を勝ち抜く一者を出さないようにすることである。
 
 そのためには、「勝ちそうになってきた方をその都度攻撃して叩いておく」というような、こまめで難儀な対応が必要になるのは確かだろう。

 ところでバグダーディ師は、オスマン・トルコ帝国滅亡後は空位となっていた「カリフ」を100年ぶりに自称した男である。
 そして、それだけのカリスマ性を持った男だと言われてきた。
 しかし私が「こりゃダメだ」と思ったのは、彼が演説する写真と映像を見たときである。

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 もう、すぐにお気づきだろう。
 演説する彼の背後で、扇風機が回っている。
 何を言っているのかわからないというのもあるが、はっきり言って、演説の内容よりも扇風機の方がはるかに気になってしまうのだ。
 普段から扇風機に当たるなとは言わないが、こんな重要な演説(なのだろう、たぶん)の時ぐらい扇風機を回すなよ、と誰でも思うのではないか?

 「扇風機に当たりながら演説するカリフ」と聞いて、しかも映像で見て、滑稽に感じない人はいない。
 いったい、ヒトラーが扇風機に当たりながら演説したか。
 ケネディ大統領が扇風機に当たりながら演説したか。
 もっと言えば、イスラム教の開祖・ムハンマドが扇風機に当たりながら教えを説いたか。
 むろん当時扇風機などなかったが、では(よくある王様のイメージのように)大きな扇を部下に持たせて扇がせていたか。
 敬虔なイスラム教徒は、そんな光景を思い描いているものなのか?

 もし彼らの背後や横で扇風機が回っていたら、それは間違いなくお笑い映像と見なされる。
 これは「中東は暑いから……」で済まされる話ではない。
 バグダーディが体が弱く暑さに耐えられないというなら、アイスノンでも服の下に着けて演説すべきであった。 
 きっとトランプ大統領でさえ、中東で演説するからといって扇風機にあたりはしない。
 これだけで彼に有能なイメージ戦略アドバイザーがいないこと、もしくはモノ言える部下がいないことがわかるし、そもそも自分で気づけよと思う。

 バグダーディは、演説のとき扇風機にあたる男であった。
 そんな彼でもカリスマと見なされたのだから、それはもちろん次から次へとカリスマは湧いて出るに違いない。
 だが、だから何だというのか。
 世の中はそういうもの、というだけではないのか。
 それはともかく、次にニュースになるのは“首都”ラッカの陥落ということになるのだろう。 
 そして次はシリア&ロシアと、アメリカ&イラク&シリア反体制派らの対立がむしろ焦点になるはずだ。
 一難去ってまた一難、一つの問題が片付けば次の問題がすぐ出てくる――
 これもまた、世の中はそういうものと言えるだろうか。

【補遺】
 バグダーディが5月28日に死亡したとすれば、6月7日のイランの首都テヘランでの銃撃戦テロは、彼の死後に行われたことになる。
 だとすると、イスラム国の分裂はまだ始まっていない――通り魔の尻馬に乗るのではなく、まともなテロ工作を遂行する能力はまだ失われていない、とも言えそうだ。
 だが、今イスラム国が行うべきはラッカ防衛に資する直接的な反撃である。
 どうせ自爆テロをやるなら、前線の米軍・イラク軍の司令部ないし航空基地とかに行うべきである。
(しかしたぶん、ロシア国内での報復テロをやる/やりたいのだろうが……)