12月3日の夜、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は突然の戒厳令を布告した。
しかし韓国国会は即座に戒厳令解除決議を行い、これを受けてわずか6時間後にはユン大統領は戒厳令の解除を表明した。
いったいこの騒ぎは何なのか、疑問に思わない人はいないだろう。
まず、この突然の戒厳令発布はまさに青天の霹靂・寝耳に水で、いったいメディアや韓国ウォッチャーらの誰がこんなことを予測し記事にしていたろうか。
この2024年の今、もはや世界先進国の一角と言っても違和感はない韓国で、さらには別に北朝鮮の韓国侵攻の兆候があるわけでもなかろうに、「戒厳令」である。
こんなことがあるんである。
ではいったい何が理由で戒厳令なのかというと――
なんとそれは、「野党の反国家的行為が目に余るから」だという。
(⇒ 読売新聞 2024年12月4日記事:韓国が戒厳令、尹大統領「野党が反国家行為」…戒厳軍が国会に入る)
(⇒ 読売新聞 2024年12月4日記事:尹大統領の戒厳令談話「血を吐くような心境で訴える」「国会は犯罪者集団の巣窟、体制転覆企んでいる」)
なんでも韓国では、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が政府高官らの弾劾訴追案の提出を繰り返し、治安に関する内容を含めた予算案の削減を求めているらしい。
それをユン大統領は「国政が麻痺状態にある」と言い、「国会が犯罪者集団の巣窟となり、自由民主主義体制の転覆を企てる怪物になった」と言う。
さらに付け足しの如く、「北朝鮮に従う勢力を撲滅し、自由憲政秩序を守る」と言う。
いやはや、野党が政府攻撃を激しくしているからと言って戒厳令を布告するというのは、日本人にとっては想像外のことである。
そんなこと言ってたら、日本だってとっくの昔に何度も何度も戒厳令下に入っていたに違いない。
日本人にこんなことの発想はなく、だからこそ今回の事態を「有識者」でさえ誰一人予想できなかったのだろう。
それともこれは、やはり日本人が平和ボケしているということなのか……
それにしても私だけではないはずだが、「議会が犯罪者どもの巣窟になった」「共産主義勢力の浸透から自由民主主義を守る」という理由で戒厳令を発布するというのは、まるで昔のアフリカ諸国の(数えきれないほど行われてきた)軍事クーデターを連想させるものがある。
別に、韓国の悪口を言うつもりはないが――
これだけ韓流アイドルやK-POP音楽が世界を――少なくともアジア地域は――席巻し、世界の経済列強の一角を占めるようになっても、やはりまだ韓国はこういう理由で戒厳令を布告するような「途上国」でなのだと、頭に思い浮かばない人がいるだろうか。
いや、そうではなく――
やっぱり韓国は今でも北朝鮮と休戦状態(朝鮮戦争は終戦していない)にあるに過ぎない戦時国家である、だから「政府の反対勢力を敵国と通じる輩と見なす」との理屈を付けられるのだ、と感じない人がいるだろうか。
そういう意味で今回の戒厳令布告は、トンデモ措置だという以外の見方もできる。
韓国はいまだ、この時代になっても……
韓流アイドルだのK-POPだのと高度資本主義的な軟弱フヌケな社会になり果てているように見えても、いまだ戒厳令を出すことの「できる」国だという見方である。
韓国はまだ、途上国的な野性味を失っていないということにならないか。
はなはだ逆説的ではあるが、今回の戒厳令は「韓国を舐めてはいけない」ことの証左になるような気もするのである。
だが一方で、戒厳令は「国会の(出席議員の満場一致の)解除決議」によって本当にすぐ解除された。
これは確かに、(ユン大統領がいったい何を意図していたのかは別として……)法治主義が強力に機能している証左でもある。
これがホンモノの途上国なら、そんな決議は戒厳令中なのだから当然無効だと大統領が言い切り、それが通っていたことだろう。
つまり韓国は、途上国と先進国の二つの顔――戦時国家の顔を加えれば三つの顔――を持つことを露わにしたように思う。
これが果たして、韓国と日本にとっていいことなのか悪いことなのか……