これは鉄道ファンや鉄道・建設業界人、地元民でなくともクリックしてしまうニュースである。
大分市は1月10日、大分県と愛媛県を繋ぐ“豊予海峡ルート”を海底トンネル&新幹線で結ぶ構想の2次調査結果を公表し――
大分-松山間を最短36分・1日36往復が可能とした上で、採算が取れると結論づけた。
ところでこのニュースが地元で報じられたのは1月11日だが、読売新聞など全国ニュースになったのは今日1月29日になってからである。
明らかに全国的なインパクトのあるニュースだと思うが、このタイムラグっていったい何なのだろうか……?
それはともかくこの構想、日本における久々のビッグプロジェクトではなかろうか。
その夢の度合いから言えば、(談合事件でケチの付いた、しかし開業時には誰もそんなこと憶えてない)リニア中央新幹線をも上回るかもしれない。
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なにせ温泉大国日本の中でも特に知名度とランクの高い、道後温泉(松山市)と別府(大分県)を、海底トンネルと新幹線の組み合わせで結ぶというのだ。
いやぁ、これは誰の頭の中にも「おっ、いいじゃん」という感想が浮かぶのではないだろうか。
(もちろんこの構想では、新幹線の一方の端は大分市である。
別府市は大分市の北にあるので、あと一歩足りないということになる。
しかし多くの日本人の意識の中では、大分と言えば“当然”あの温泉郷・別府なのだ。)
温泉、海底トンネル、海底を走る新幹線――
別に鉄オタや鉄ちゃんでなくても、これは男なら胸躍る組み合わせと言うべきだ。
しかも四国の輪郭の中でも最も印象的な、あの“超細長い”佐田岬半島を通るのである。
これはもう、この路線の愛称は“ゆけむり海道”で決まりだろう。
広島県尾道市と愛媛県今治市の島々を繋ぐ“しまなみ海道”はサイクリングの聖地として世界的に有名らしいが――
“ゆけむり海道”は、温泉の聖地として世界的に有名になれるかもしれない。
おそらくこの計画、愛媛県民・大分県民はもとより、その近辺の県民も諸手を挙げて熱烈賛成のような気がする。
少なくとも「直感的に反対する」ということには、ならなさそうである。
だがもちろん、この「いいじゃん」という直感は、所要資金を抜きにしての話である。
意地悪く言えば、この構想に地元県民・周辺県民が賛成するのは――
どだいどんなビッグプロジェクトがその地方で行なわれようと、その地方の住民が増税される仕組みにはなっていないからである。
本当はこんな大事業をやるのなら、利益を受ける大分県民・愛媛県民くらいは増税になって当然なのだが、今の日本ではそういうのが議論自体にならないのだ。
大分市の試算では、この事業が6800億円でできるという。
ちなみに1999年に完成したしまなみ海道(西瀬戸自動車道)の総事業費は、7500億円。
もちろんしまなみ海道には鉄道も海底トンネルもない。
それを考えると6800億円というのは、ちょっと安すぎる見積もりではないかと感じられる。
(いや、間違いなく実際の工事費はもっと増えるだろう。それは建設工事の宿命みたいなものだ。)
そして上記の読売新聞記事には、
「北海道新幹線や九州新幹線を参考に旅客運輸収入や経費などを計算したところ、
1日当たり約6800人が利用すれば営業収益は年間141億円となるとした。
大分市は2016年度調査で1日当たりの利用者数を約1万8000人と推計しており、初年度から黒字になると見込んでいる。」
と書いてあるのだが……
1日6800人が利用“すれば”とあるのが、何とも怪しげと感じる人は感じるだろう。
また、1日当たり利用者が1万8000人というのだが――
私はもちろんこんな推計なんてできないながら、非常に多すぎないかとは直感的に思うのである。
橋やトンネル道路であってクルマが行き交うならともかく、人間だけがそんなに往来するほど、四国と九州というのはそんなに交流需要があるのだろうか。
そして“初年度から黒字になる”見込みならいいじゃないかと思うところだが……
当たり前ながらこの試算と推計、この構想を推進したい大分市がやっているのである。
より正確に言えば、推進したい大分市の意を受けた業者がやっているのである。
その結論が「実現可能性あり」となるのは、必然というか運命的だと言わねばならない。
とはいえこの構想、非常に魅力的なのは確かである。
ともすれば、採算度外視でもいいじゃないかとさえ感じられるくらい、魅力的でインパクトのある事業である。
本州と北海道は海底トンネルで繋がり、本州と四国は橋で繋がった。
日本に残された最後の断裂である四国と九州が、ついに繋がるときが来る……
かの愛知万博は“土建国家最後の祭典”と言われたこともあったが、この大分市構想こそ、真の最後の祭典になるのかもしれない。
(しかし本当に巨額の費用を要するのは、今すでに存在し、老朽化した、全国既存インフラの更新という超絶巨大事業なのだが……)