街中で、わざと女性に体当たりして歩く中年男性が増えている――
そんな話はここ数年確かにネット記事で見たことがあるが、実際にそんな光景を目撃したことは一度もない。
しかしこれは都市伝説や「レアケースを針小棒大に採り上げる」ではなく、実際に多数発生している事件のようである。
現代社会が中年男性(団塊ジュニア世代・氷河期世代)に与えるストレスが、こんな「凶行」の原因になっているのかもしれない……
それは上記引用記事の書き手でなくても、多くの人が思いつきそうな仮説である。
言い方を変えれば、「格差社会は人間のクズを炙り出しやすくする」ともなるだろうか。
格差の炎が下で燃えているが、当然ながら人間のレベルの下の方からその火に燃やされていく、という救いのない図である。
元から人間がクズなのか、本当に格差社会・ストレス社会が人をこんなに変えてしまうのか――
どちらが正解かはわかりかねるが、この嘆かわしい社会現象は、社会にどんな影響を及ぼすだろうか。
まずすぐ考えつくのは、こんなことは大都市ならではの現象ではないか、という思いつきである。
人気も少なく、互いに顔を知られている(と、互いが疑っている)小都市や田舎では、人間のクズといえどもなかなか体当たり行動なんてできないものである。
だから大都市で本当にこんなことに悩まされている・恐怖を感じている女性が多いなら、
それは「田舎暮らし」「リモートワーク」が盛んになる一因にはなってくるだろう。
そしてもう一つ――
体当たり中年男のクズぶりをますます確信させることに、
「髪色や服装を派手にしたり、
顔にピアスをつけていたりすると、
そうでないときよりも被害にあいづらい」
という実体験談が多く寄せられているそうだ。
要するに、ちょっと派手めでケバくて「おとなしくなさそうな」女性を、彼らは明らかに避けているらしい。
であれば逆に言えば、女性が髪を染めたりピアスを着けたりするのは、「体当たり男よけ」のため正当化される、ということにならないか?
髪を染めたりピアスをしたりケバい化粧をすることは、今の日本社会では偏見を持ってみられることを意味する。
そういうことを禁止している職場は、
禁止していなくても「自粛ムード」にある職場は、
日本の職場の9割以上を占めているはずである。
だが、この「体当たり現象」がもっと広まって知られてくれば――
何もしなければ実におとなしく内気に見える女性が、自衛のために派手な格好をする、というのも、
「うむ、そうか、それならやむをえない」とならなければウソだろう。
それを許さない職場があれば、「女性の安全をなんと心得る」とネット上でプレッシャーをかければよい。
「なんだその格好は」とクレームを付けてくる客がいれば、「アンタ、体当たり男のことを知らないのか」とバカにすればよい。
「あの、体当たり男を避けるためにこんな格好してるんです…」と、はにかみながら可愛く言えばよい。
私は女子プロレスを見ているからか、
女性が髪を染めようと派手めな格好をしていようと、
別にその女性が性格までも奔放だとは思わない。
むしろ、街で黒髪ばかりの女性を見るのに飽きが来ているくらいである。
はたして「体当たり男」の増加は、女性の「大都市離れ」を促すだろうか。
ほんの少しでも、女性の服装への社会の寛容度を増すことになるだろうか。
それがどんなクズな行為だろうと、環境とは人間の行動に変化をもたらすものである。
人間は、環境に適応するものである。(それが「進化」である。)
実際に「自転車を盗むクズ」は、どんな田舎ででも(たいていの人間は)自転車に鍵をかけるという適応をもたらしているではないか?