3月7日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が種子島宇宙センターで試みた「H3」ロケット初号機の発射は失敗に終わり、ロケットは自主破壊された。
昨年10月にはイプシロンロケット6号機の発射にも「失敗」しており、日本の宇宙開発は剣が峰に立たされたような感じである。
なお、この打ち上げ失敗の損失は100億円くらいにもなるらしい。
ここで日本人なら普通に思うのが、あの北朝鮮がまるで月ごとの行事のごとくICBMなど各種ミサイル・ロケットの発射実験に「成功」していることだろう。
なんとなんと、少なくとも今この時点この分野では、日本は北朝鮮にも及ばないのだ。
こんなことを、たとえば90年代に誰が想像しただろうか。
そしてもう一つ思うのが、この失敗について少なくともネットの書き込みは、エール・激励・「次は頑張れ」・「失敗はしょうがない」の声が圧倒的に多いことである。
ああ、なんという心温まる光景だろうか。
こんなことは、ネット界では滅多に起こることではない(笑)
これは政治家や芸能人・企業人・官庁が何か失敗したときに比べ、なんという違いなのだろう。
いったい日本人は、そんなに宇宙開発に興味があるのか、応援しているのか、好きなのか……
なんだか日本のネット界では、ただ宇宙開発だけは、大衆から失敗が許される分野のような気がしてきさえするではないか。
もしかすると宇宙開発というのは、日本人の自尊心・「技術立国ニッポン」のプライドの、最後の砦なのではないか。
だから、こんなに応援の声が上がるのではないか。
半導体もドローンも製鉄も、ほとんど産業のありとあらゆる分野で日本の没落が伝えられる昨今である。
労働者の賃金が30年間(世界を尻目に)上がっていないことは、もう日本人共有の常識となった。
その中で宇宙開発の分野は、「はやぶさ」の成功のように、一般大衆にも「日本の技術力は高い」ということがかなり伝わりやすい。
(なんだか、スポーツのようである。)
この点では、量子コンピュータの分野なんかは伝わりにくいことおびただしい。
加えて宇宙開発は、まさに「これから」の発展が期待される領域である。
それは空間的なフロンティアというより、心理的なフロンティアと言った方が当たっている。
そしてもちろん日本人と言えども、宇宙開発でアメリカに勝てるとは思っていないが……
しかし中国あたりになら、なんとか勝てる見込みがありそうに思っている(のではないか?)。
ましてや韓国などになら、圧倒的にリードできると思っている(のではないか?)。
今の日本人は普通なら、100億円の税金を失敗で失ったなどと聞こうものなら、燎原の火のごとくネットは怒りと罵言で盛り上がりそうである。
しかし宇宙開発だけは、そうはならない。
それは、もうこの領域だけが「日本の技術の高さ」を立証できそうなラストリゾート・ラストホープだからではあるまいか。
そうだとすると、日本の宇宙開発に携わる人というのはとんでもないプレッシャーを負わされたものだ。
宇宙開発は、「技術立国日本」の最後の希望の砦となった。
それ以外はほぼ、造船や自動車でさえも、砦ではなくなった。
もしこの宇宙開発の分野でまで、技術力の高さの立証に失敗したならば……
日本人にとって日本の没落は、心理的に決定的なものになるのではないだろうか。