たったこの1ヶ月で日本全土を覆った、新たなるインテリア(オフィス・店舗の調度)がある。
言うまでもなく、例の「ビニールの垂れ幕」である。
新型コロナの飛沫感染を防ぐため、この垂れ幕はほとんど瞬く間に日本全国のレジ・窓口に広まった。
今やこれは、現代日本を象徴する代表的な光景である。
あるいは、(後の時代にテレビ番組で回顧されるような)2020年限定の「思い出の・懐かしの風景」になるのかもしれないが――
しかしそうでなく、本当にこのビニール垂れ幕が日本に定着する新風俗になる可能性も高い、と私は思っている。
なぜならそれが、「飛沫感染防止」以外の効果もあるのではないか、と思うからだ。
その効果とは、「客からの従業員に対する暴言・暴力を減らす」というものである。
人は、こんな薄っぺらい透明な幕であったとしても、「相手と隔てられている」感を抱くものである。
間に何もない場合より、「気後れ」とは言わないまでも、多少は「気が引ける」「遠慮する」心理状態になるものである。
それは、今までの「無防備」そのものだったレジ係や窓口係にとって――
一つの(物理的ではなく)心理的な防護壁(バリア)となり得るのではなかろうか。
そして客にとっても、「直接に手を伸ばしても相手に触れられない(殴れない)」状態にあると、手を出す気分になる可能性は、目立って減るのではなかろうか。
ここらへんは、ぜひとも労働学者やオフィスデザイナー・店舗デザイナーなどに調査研究してもらいたいところである。
思うに、実は密かに、日本中のレジ係・窓口係の人たちの中には――
このビニールの垂れ幕ができたことによって、安心感を得ている人が多いのではないだろうか。
それにしてもこの(誰も予想しなかった)ビニールの垂れ幕の出現は、
どうしてもかつて日本の家屋にあった「御簾(みす)」や「すだれ」の復活を連想させる。
現代のオフィス・店舗が、江戸時代の商家や平安時代の寝殿造りの邸宅にこんな形で早変わりした――というのは想像が飛躍しすぎだが、
日本の建築史・インテリア発展史の中で、実はこれ、ちょっとしたエポックメーキングな出来事ではないだろうか。