6月20日、自分の弟(40歳)を「トイレでの練炭自殺」に見せかけて(睡眠薬を飲ませて)殺害したとして、その実の姉(44歳)が逮捕された。
この姉氏、弟はおろか父や母にまでインシュリンだのを飲ませたというのだから、「女毒殺魔」のような人である。
(一応、本人は容疑を否認しているが)
(⇒ J-CASTニュース 2018年6月21日記事:練炭自殺に見せかけ弟殺害!「会社社長の姉」睡眠薬飲ませ遺書も偽装)
(⇒ 時事ドットコム 2018年6月21日記事:弟殺害容疑の女社長、睡眠薬使用か=母親も意識失う-大阪府警)
(⇒ 産経west 2018年6月21日記事:携帯に練炭自殺の検索履歴…パソコンで遺書捏造の疑いも)
(⇒ 時事ドットコム 2018年6月21日記事:逮捕の女、弟宅周辺に親族中傷ビラ=PCで作成、殺害隠蔽か-大阪府警)
しかしこの女毒殺魔、探偵小説の犯人となるにはかなりズサンでボロボロにヌケている。
家族をも毒殺しようとする悪魔のような恐ろしさ、というよりも、むしろそっちの方がよっぽど気になる。
ほんの数本のネット記事を見ただけでも、
●弟に盛った睡眠薬は、自分自身に処方されていた睡眠薬と同じもの
●自分のパソコンで、しかも自分しか使っていないパソコンで、弟の遺書を偽造。印刷履歴も残す
●弟の死の1ヶ月後に、近所に「弟の妻が弟を自殺に追い込んで会社を手に入れた。姉が犯人の可能性はない」という内容のビラをまく。その印刷履歴も同じパソコンに残す。
と、まあ、ミステリ小説ファンが「バカにするな」と怒り出しそうな、悲惨なまでのヌケサク犯人像である。
「自分のタイプライターで偽造文書を打ったのがバレないよう(または他人に罪を着せようとして)、わざわざ別のタイプライターを使って作成する」
なんていうのは、古典的推理小説の定番的な犯人の「たしなみ」である。
いや、別に推理小説を読んでいなくたって、これくらいのことはたちどころに思いつきそうである。
むしろここまでヌケていると、この姉氏は本当は犯人じゃないのではないかと思えてくるほどだ。
少なくとも彼女、推理小説やミステリの類は全く読んでいないようである。
しかし何より致命的というか、悲惨なまでにヌケている点は――
弟の遺書を偽造するのに、パソコンに打って印刷したという点だろう。
「自分で遺書を書く場合、それは全文が手書きでなくてはならない。
文章はワープロで打って、最後だけ印鑑を押せばいいというものではない」
というのは半ば国民的常識だと思われるのだが、この姉氏、そんなことはついぞ知らなかったようである。
いや、案外、これは常識ではないのかもしれない。
これまでもこれからも、パソコンで誰かの遺書を偽造して最後にハンコだけ押し、
大いばりで「見ろ、遺言書があったぞ。遺言書にこう書いてるだろ」なんて「勝利の確信をもって」人に見せつける犯罪者(または強欲人)は、きっと何人もいるのだろう。
この姉氏、弟の死の前に「練炭自殺」をネット検索した履歴があるようだ。
しかし「練炭自殺」は検索しても、どうやら「遺書」は検索しなかったらしい。
(検索すれば、ワープロ書きの遺書は無効だとアッという間にわかっただろう。)
これを弁護するならば、たぶん姉氏もその他世の中の大勢の人も、遺書を偽造するのに「ワープロ書きではダメ」なんてことは、思いつきもしないのだと思われる。だから検索しようなんて思いもしないのだと思われる。
それは世の中の本当の「常識」は、「手書きでなくてワープロ書きするのが当たり前。それを印刷したものにハンコを押したものこそ正式な文書」というものだからである。
ワープロやパソコンが普及し尽くし、手書き文化が衰退したと言われて久しい。
むしろ今の世は、「手書きなんて見苦しい/わざわざバカか」と、悪印象を持つ人の方が多いくらいかもしれない。
そう考えると今回の女毒殺魔は、真の意味で「常識の犠牲者」と言うべきだろうか……