「ソドムとゴモラ」といえば、聖書の中で神の怒りに触れて滅亡した町として有名である。
神は何に怒ったかと言えば、ソドムの場合は住民が男色に耽ったことであるとされ――
おかげで英語の「ソドミー」は、男色を示す言葉となったとなったのは周知のとおり。
これは現代の風潮からして、聖書の神のコンプラ違反やLGBT差別が非難されるところだろう。
それはともかく9月20日、アメリカとヨルダンの共同研究チームは――
「天からの炎と硫黄」で滅ぼされたとするソドムの話は、現実にあったことだと言ったも同然の発表をした。
ヨルダン渓谷の南部の高台の「トール・エル・ハマム」と呼ばれる都市遺跡の発掘により、
紀元前1650年頃(青銅器時代中期)にその街の上空で直径50メートルほどの隕石が爆発し、
その威力はTNT火薬換算で約12メガトン、広島型原爆の100倍以上の破壊力を持ち、
これにより街は完全に破壊され、その周囲は300年から600年にわたり無人の地となったという。
さて、もしこれが本当の話なら、エラいことである。
ソドムは(ソドムのモデルだったかもしれないこの街は)長い人類の歴史上ただ一度、隕石によって破壊された街及び人口密集地だったということになるからだ。
ソドム以前は知る由もないとして、ソドム以後の人類は、そんなことを一度も経験したことがない。
しかしそれは確かに一度は起こり、それが聖書に記録されていたことになる。
むろん昔の人類にその原因が隕石の爆発だと思いつくはずもなく、まさに神の怒りとしか思いようがなかったろう。
神が火と硫黄を天から降らせた、という表現は、その時代として最高度の正確な描写とさえ言える。
聖書に書かれた出来事が本当にあったことか調べる考古学を「聖書考古学」と言うが、今回の発表が立証されればそれは、史上最高の聖書考古学の成果と言ってもおかしくない。
これは、いまだ欧米に(特にアメリカに)多いという聖書根本主義者(ファンダメンタリスト)――聖書に書いてあることは全て真実だとする――にとって、むろん強力極まる追い風である。
そしてまたおそらく「ソドム」の街には、本当に男色の風習が――それが天罰の原因だと言い伝えらる程度には――、確かにあったのだと思われる。
それにしてもこの話、当時のソドム周辺の住人にはとんでもない大災厄・大悲劇ではあるが、それだけに現代人にはものすごいロマンの一種となっている。
オカルト好き・天文学好きの人なら、あの1908年6月30日にシベリアの原生林に落下したツングースカ隕石のことを知らない人はいない。
そしてそれが、よりにもよって中央シベリアなどという辺鄙極まる地方ではなく――
もし同時代の人口密集地、たとえばロンドンとかニューヨーク、あるいはモスクワや東京に墜ちていたら世界はいったいどうなっていたことか、空想したことのない人はいないだろう。
だがそういうことは、紀元前1650年頃においてまず間違いなく地球最大の人口密集地であったに違いない地中海東岸~メソポタミアの地で、実際にあったということになる。
これは(我々の知らないうちに)、間違いなく人類の歴史は変わっていたということである。
隕石の衝突・空中爆発で大都市周辺が全滅する、ということが現実に一度はあったのなら、それはこれからも起こるだろう。
そして聖書がその事実を記録していたとするなら――
その他の世界の神話や伝説にも事実が記録・反映されていると考えるのは、もちろん当然のことになる。
そうなるとあの、歴史上最も奇怪な神話……
ヨーロッパ人が到達する前の中米・南米において、「白い神」が東から訪れて「私はまた帰ってくる」とか言って去って行ったとする伝承は、もしかして事実の記録なのだろうか……