厚生労働省の行う「毎月勤労統計」に不正・不適切があり、それが雇用保険の支給額などに影響があるとして問題になっている。
そしてどうやら、昨年2018年の実質賃金の伸び率はマイナスだった――
つまり、安倍首相ら政府が「勤労者の賃金は着実に伸びている」と言っていたことは結果的に(少なくとも直近では)ウソだった、ということになりそうである。
(⇒ 日本経済新聞 2019年2月5日記事:厚労相、野党の試算認める 18年の実質賃金マイナス 公表は「検討」 )
私はこれ、あの森友学園問題など問題にならないほどオオゴトだと思う。
これを理由に内閣が吹っ飛んでもおかしくないほどの話だと思う。
何と言っても、国の政策は統計を元に立案・実施されている。政策の論拠自体にもなっている。
いや別に国ばかりでなく、国の統計を元に経営戦略や企画書・提案書などを作成してきた民間事業者は、何万人もいるはずである。
極端に言えば、
「毎月勤労統計によると消費者の賃金は確実に上昇しているため、このくらいの値段設定でも消費者は十分吸収できるものと思われる」
なんて文章の入った商品企画書は、たちまちゴミクズと化してしまうようなものだ。
この罪は、天より高く地より深いと言っては言い過ぎだろうか。
ところで、国の統計について私がかねがね思っていたのは――
似たようにしか聞こえない統計調査なのに、それが各自バラバラの省庁でなされているのは何とも納得しがたい、という点である。
例えば、
●消費者物価指数(CPI)と全国消費実態調査と小売物価統計調査は、総務省統計局
●消費動向調査は、内閣府
といった具合である。
なるほど歴史的経緯とかいろんな理由でそうなっているのはわかるのだが、こんなバラバラでいいのだろうかとは、どうしても素朴に思う。
そしてもう一つ思うのは――
「国の省庁が統計を取って結果をまとめるなら、そりゃあ政権からの圧力や忖度が生じるのは当たり前ではないか」
という疑問である。
我々は、「三権分立」という制度を当たり前のものと思っている。
立法権は国会(国会議員)、行政権は政府(政権)・役所、司法権は裁判所。
国家権力をこの三つに分けて牽制し合わせる・一極集中させないようにする、というのは、現代人にとって当然の常識である。
だから我々は、裁判所が政府に敗訴判決を下すのを違和感なく聞いていられる。
それだったら、「統計調査権」というのもまた、当然に政府・政権から分離すべきではなかろうか。
すなわち、立法権・行政権・司法権・統計調査権の「四権分立」である。
統計調査って、裁判所の政府からの独立と同じくらい独立させるのが普通ではないかと私には思えるのだが、どうだろう。
そうでなければ、別に「アベノミクスが成功していることにしろ」と政権が圧力をかけなくたって、省庁の方が勝手に忖度して統計を調整するなんてこと、普通に生じ得るはずである。
(もしあなたが政権の座に就いていれば、当然そういう圧力をかけたいと願うし、勝手に忖度してくれるならその省庁を可愛く思うはずだろう。)
だがしかし、こんな四権分立案が政界で真面目に議論されることはなさそうだし、国民の関心は大して盛り上がらなさそうでもある。
よってこの手の不正統計・不適切統計問題は、これからも何度も生じると予言しておいてよいだろう……