プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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グーグル「性差肯定/反ダイバーシティ文書でクビ」事件・その1 これは21世紀の異端審問・魔女狩りか?

 グーグルの匿名男性技術者(エンジニア)が社内掲示板で共有した、

「男女は生まれつき能力が違う。だからIT企業(業界)で技術者や管理職に女性が少ないのは差別ではない」
「性別による違いを性差別だと決めつけるのは、やめなくてはならない」
 とした文書が、波紋を呼んでいる。
(全文は『ギズモード』の英文サイトに掲載された。)
 そして8月7日、グーグルはこの匿名エンジニアJames Damore(ジェームズ・ダモア)氏を解雇したと発表した。
 

 グーグルと言えば、世界で最も名声を馳せる企業の一つ。
 地球上で最強・最先端の企業というイメージを持つ人も多いだろう。
 そのグーグルにして、中の人はかくのごとし――
 もちろん会社としては(役員としては)「これは当社の公式見解ではない」「これは誤った考え」だと言うに決まっているが、しかしダモア氏によると、「他のグーグル社員から個人的に、感謝のメッセージをたくさんもらった」そうである。
 だからといって、よもやグーグルの社員が“遅れた考えのバカばっか”と思う人はさすがにいまい。
 しかしそれでも、「生得的な性差によって、男女間に差が付くのは自然なこと/当たり前のこと」という意見は、ものすごく根強いことがよくわかる。
 日本でもよく知られた言葉である「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」や「アファーマティブ・アクション(少数派や弱者への優遇措置)」に対する反感・批判は、地球最先端の企業でさえも広く深く浸透していることがわかる。
 そして、そういう“雰囲気”が社会(社内)正義として罷り通るのは我慢ならん、と(匿名ながら)表明する反骨漢はやっぱりいるのだということもわかる。 

 ところでこのニュースを聞いた日本人男性のほとんどは、むしろ「よく言った」「こんなの当たり前のこと言ってるだけじゃないか」と思ったのではないだろうか?
 男女にはもちろん性差がある、違いがある。
 だから“結果”が異なるのも当たり前のこと。
 こんな当然すぎることを言ったら叩かれる、というのがもう思想弾圧だ。
 こんな当たり前のことに目も耳も塞いで「平等にしろ」だの「優遇しろ」だの言うのは、まさに“不都合な真実”から顔を背けるのと同じこと――
 というのが、大方の日本人男性の感想だと思われる。
 もちろん「こんなこと言えばクビになるかも知れないってわかってるだろうに、バカだなぁ」と呆れも冷笑もするのだろうが、それでもダモア氏の言ったことは“本当のこと”と受け取る人の方が、圧倒的に多いだろう。

 思うに、ダモア氏が多くの人に「真実(を言ったこと)の犠牲者」と見なされるだろうことは、グーグルの姿勢にも原因の一端がある。
 「彼の意見は当社の方針に沿うものではない」「彼の意見は当社の意見ではない、当社の意見に反する」とだけコメントして解雇するなら良かったのに――
(そう、解雇以外の選択肢はなかったはずだ。)
 「職場における有害な性別の固定観念を推進している点で一線を越えている」(グーグルCEOスンダル・ピチャイ氏)とか、
 「ジェンダーに関する正しくない思い込みを提示した」(グーグル副社長(多様性・公正性・ガバナンス担当)ダニエル・ブラウン氏)とか、
 あたかもダモア氏の意見が「人類普遍の道徳律に反する」と糾弾するかのような“余計なこと”(思い上がったこと、と言うべきか)もコメントしてしまっている。
 欧米人はいざ知らず、日本人がこんな話を聞けば――
 21世紀の欧米では再び「魔女狩り」「異端審問」が行われている、
 「男女に性差があると言ってはならない」という教義(ドグマ)に反する者は吊し上げの刑に処される、
 そしてグーグルを含む欧米企業という現代の教会は、まるで独裁者治下の役人・人民のように、他人を吊し上げなければ自分が吊し上げられるものと戦々恐々としている、
 とのイメージを抱くのではないか?

 おそらくダモア氏も、こんな文書を社内掲示板で共有したらクビになるかもしれない、いやクビになるだろう、とわかっていたものと思う。
 今の欧米の雰囲気で、それもグーグルというそこらの中小企業とはかけ離れた企業でこんなことを言って、まさかクビにはならないだろう――なんてタカをくくっていたとはとても思えない。
 だったら書くなよとバカにするのは簡単だが……
 しかし人間には、“かく言えば、かくなるものと知りながら、やむにやまれぬ”心境になることがあるものである。
 たとえ吊し上げられるかもと恐れていても、レジスタンス活動をやりたくなることがあるものである。
 
(たぶんダモア氏は、クビになってもいいと覚悟は決めていたと思う。
 そしてクビになっても、ある程度は他の職場でやっていけると踏んでもいたのだろう。)

 もし今後ダモア氏が「異端審問への抵抗者」「殉教者」「勇敢な闘士」と見なされることがあるとしても、それは“仕方ない”ことと思われる。
 
 さて、私はIT業界において――エンジニアリングとかプログラミングとかの能力について女性は男性に(総体的に)劣るのか、判断することはできない。
 しかし相当な確信を持って言えるのは、そもそも圧倒的大多数の女性はエンジニアリングやプログラミングに興味を持たない、ということである。
 おそらく世の大半の女性にとって、プログラミング言語を学びたいとか、ましてやドップリのめり込むとかいうのは、理解しがたいことだと思う。
 これはそれこそ、「男って、なんであんなの好きなの?」と言いたくなることの一つではないだろうか?
(そして逆に男性は、爪に色を塗るのが好きだとかカワイイとか思っている女性に対し、「バカじゃねぇか」とたいてい思っているものだ。)

 本ブログでも以前に書いたが、あの国際的ハッカー集団「アノニマス」に女性メンバーがいるものかどうか、私はかなり怪しいものと思っている。

 女性メンバーがいるとしても微々たる数だろうし、「凄腕(美人)女性ハッカー」というのはきっと創作物の中だけの存在だろう。
 ハッカーの世界やサイバー戦の世界は、人間世界の中で最も「男の領域」と呼ぶにふさわしい世界だと思う。
 私が世事に疎いだけかも知れないが、日本でもどこでもエンジニアとしてIT業界に入りたい人間の中で、女性の割合は男性のそれより圧倒的に少ないのではないだろうか?
 そもそも志望する人数に差があるのなら、ITエンジニア女性が少数派になるのは“仕方ない”話である。
 それをダイバーシティとか言ってことさらに優遇しようとするなら、いわば「オタサーの姫」が(上層部に)チヤホヤされるのは我慢ならん、と憤然とする男性が多くいても、それは自然の成り行きに思える。