8月7日、山梨市長のM容疑者(70歳)が、市職員採用試験で不正を行ったとして逮捕された。
山梨市(山梨県)にとっては大事件で、たぶんこの話題で持ちきりなのだろう。
現職の首長が逮捕されるというのは、極めて珍しいことである。
逮捕容疑は、「昨年(2016年)の採用試験で特定の候補者を合格させるため、1次試験の得点を水増しするよう市職員(人事担当者)に指示した」というものだが、M市長は逮捕されたその日に容疑を認めている。
なお彼は、先代の市長の時には止めていた「2次試験への市長の立ち会い」を復活させていたらしい。
この場合、1次試験は筆記試験で、2次試験が小論文及び面接である。
こういうことがあると「2次試験に市長が立ち会うと自分で言い出すなんて、採用への影響力を増すために決まってる」と必ず思われるものだが、採用面接に社長が立ち会うのはさほど悪いこととも言えない。
人間を採用するというのは、それほど大事なこと――組織にとって、これ以上重要なことは他にないからである。
ただ今回の場合は、そもそも筆記試験である1次試験の点数を水増しするよう指示したというのだから、どうしようもない。
つまりこの不正採用された本人(男性である)は、本当は1次試験で落ちていたのだ。
本当は、他の誰かが彼の代わりに2次試験へ進んでいたのだ。
(昨年度の山梨市役所の受験応募者は57人、そして男性12人・女性5人が今年4月に採用された。)
今ごろ山梨市役所では、この男性12人が非常に嫌な思いをしているだろう。
いや、もちろんうち1人は不正合格した人間だが、当然ながら人事担当課はそれが誰かを知り抜いている。
おそらく彼は、自主的に辞めることになるはずである。(採用取り消しとどっちが早いかはわからないが……)
しかし弁護するわけではないが、たぶん十中八九、この本人自身は不正採用に関わってはいないのだろう。
親が勝手に市長へ頼みに行ったのであって、本人はそんなことまるで知らないというのも大いにあり得る。
(親というのは、しばしばそんなことをするものだ。)
さて、私はてっきりこの事件、「市長に採点改竄を命じられた市職員が、義憤に駆られて警察にタレ込んだ」ことから発覚したのかと思ったのだが――
そうではなく、M市長の元妻(61歳)が知人男性から3億7,000万円(!)あまりを詐欺で騙し取ったことに関連し、警視庁がM市長の自宅を家宅捜索したことにより今回の疑惑が浮上したらしい。
M夫妻は今年2月に離婚し、元妻の方は先月7月に詐欺罪で起訴され、とうぜん市長はそれへの関与を否定していた。
そしてM市長は市議・県議・市長へと30年も地元政界で根を張り、市職員を「鬼のような形相で怒鳴ったりもする」タイプのようである。
なんかこう、悪い意味で典型的な「地方政治家」――
夫婦そろってヤクザまがいのチンピラボスであるかのようだ。
それはこんなのに「彼の得点を変えろ」と言われれば、人事担当も恐れて従わざるを得ないだろう。
全く、宮仕えとはツラくも虚しいものである。
そしてこんなのが30年間も地元政界で生き残り・幅をきかせてきたのだから――
こう言っちゃ何だが、山梨市民の民主主義の程度、人を見る目の程度も知れたものだ。
いや何も山梨市民だけがそうなのではなく、日本全国似たようなものなのかもしれない。
山梨市は人口3万5千人、職員数は320人ほど。
この程度の規模の市町村なら、「こんなことはよくあること」――
こんな事件は氷山の一角というか九牛の一毛というか、「全国どこでもやってんじゃないの?」とみんな思うのも仕方がない。
それにしても……
「若者が目指す職業の第1位は地方公務員」という話はよく聞くし、それに対して「嘆かわしい」とネットに書き込みがされるのもよく見るところである。
しかし、不正やコネまで使って入ろうとするのが(親が入れようとするのが)、またこう言っちゃ何だが「たかが人口3万5千人の街の職員」だというのは――
義憤を覚えるというよりも、あまりのショボさに哀しくなってはこないだろうか?
【蛇足】
「M市長の自宅捜索により、不正採用の容疑が固まった」というが――
自宅を捜索して不正採用の容疑が固まるって、いったいどんなものが見つかったのだろうか。
私の乏しい想像力では、「市長様のおかげをもちまして息子を採用いただきました。本当にありがとうございます」などという親からの手紙でも残していたのだろうか。
(確かにこういう手紙は、たとえチンピラでも簡単に捨てられない気がする……)
あまり期待はできないが、今後の報道ではこういう細かいことも伝えてほしいものである。