プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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小豆島「エンジェルロード」は私有地なので立入禁止に…賃料年間40万円は安いのか

 小豆島は土庄町(とのしょうちょう)にある「エンジェルロード」という砂州(さす)は、“恋人の聖地”として有名らしい。
(私はとんと知らなかったが……)
 その土地の所有者が6月中旬、「エンジェルロードはここまで! この先私有地です 立入禁止」の看板を掲げたとしてニュースになっている。
 
 

 所有者の男性は中余島と小余島を所有しており、2015年から地元の土庄町から年間40万円の賃料を受け取っていた。
 しかし所有者はその賃料額に不満を持ち、加えて観光客が岩山を上るのを止めさせよと町に訴えたがトラブルになってしまったので、強硬手段に出たようである。

 こういう話を聞いて思うのは――
「やっぱり土地は(基本的には)持っておくものだ」ということと、
「町が或る土地を観光資源として利用したいなら、やっぱり買っておくべきものだ」ということである。

 土庄町(と観光業界)がこの地を“恋人の聖地”としてPRを始めたのは、約15年前。
 もちろんこのしょっぱなから公費を使って買うことは、説得力的に厳しいものがあったろう。
(ヒットするか海のものとも山のものともわからないのだから……)
 しかし(後知恵になってしまうが)その数年後に買い取りを申し出れば、かなり安い値段で買うこともできたかもしれない。
 もっとも土地の売買というのは実に難しいもので、この所有者の男性がすんなり譲ってくれたとは(このケースでは)考えにくい。
 「島をまるごと所有する」というのは、たとえ実益がなくとも精神的にはかなり訴えてくるものがある。
(あなたが男なら、そういう気持ちはわかるだろう。)

 写真を見るとわかるとおり、もしこの島が干潮時は砂州で繋がる「珍しい地形」でなかったら観光的な価値はなく、もちろん工業用地・港湾用地的な価値もないので、土地の値段も二束三文にしかならない。
 それは逆に言うと、固定資産税が全くかからない(免税点の範囲内)ということでもある。
 この二つの島の登記地目は「山林」に違いなく、現況もまた山林である。
 よって所有者は、維持費ゼロで年間40万円の賃料という不労所得を得ることになる。
 ただの郊外の山林ならともかく、これだからこういう珍しい土地は持っておくべきなのだ。 
 
 さてしかし、この「年間40万円」という賃料は安すぎるのだろうか?
 エンジェルロードには国内外から年間20万人が訪れるという。
 そしてその目の前には、エンジェルロードを望むことをウリにしている「小豆島国際ホテル」というホテルまである。

 この観光価値を考えると、年間40万円(月額3万3千円ちょっと)というのは確かに不当に安く見える。
 しかも土庄町が所有者に賃料の支払いを始めたのはつい最近の2015年からなので――
 これは推測に過ぎないが、おそらく所有者の方から「おかしいだろう。町が積極的に観光地としてPRしてるのだから賃料を払うべきだろう」と迫ったものと思われる。
 だがしかし、その観光価値というのは――
 所有者の男性が作り出したものでなく、土庄町(ら)のPR活動・宣伝投資によるものであるのは明らかに感じられる。
 そうなるとやはり、所有者は自らの負担なしに自分の土地の価値をものすごく高めてもらったことになる。
 
 おそらく、というかほぼ間違いなく――
 年間40万円の賃料というのは、この2島の本来の価値からすれば、それでも高すぎる値段である。
 土庄町がどうやってこの賃料を算出したのか知らないが、しかし基本的には固定資産税評価額を元にして算出するものだ。
 となると「山林」2つの固定資産税評価額なんてゼロに近いので、その年間賃料なんて1万円にも満たないのが当たり前なのだ。
 しかしそれではあんまりなので(とうてい所有者も納得しないので)、キリのいい「40万円」という値段にしたのではないだろうか?
(そんなにハッキリした算出根拠はないはずである。)

 いやしかし、もし観光客が岩山に上ってケガをしたら所有者が責任を負うのではないか、それなら40万円はやっぱり安すぎるのではないか――
 と誰しも考えるのだが、しかし観光客が岩山に上って転落したり死んだりしても、別に所有者が責任を負うわけではないだろう。
 それはあなたが所有する山に誰かが入り、木の枝で目を突いて失明したからといって、あなたが責任を負うわけでないのと同様である。
 なるほど民法には「土地工作物の無過失責任」というものがある。
 しかしそれは「土地の上に建物・塀などがあり、そのせいで誰かがケガしたらまずは賃借人が責任を負う、賃借人に過失がない場合は所有者が無過失でも責任を負う」というものだ。
 本件の2島に建物・塀などはない。土地「工作物」はない。あるのは自然の島だけである。
 なるほど岩が落ちてきて観光客を直撃するという可能性もあるが――
 しかしその場合、まず間違いなくこのケースでは、賃借人の土庄町が全責任を負うだろう。
(法律的に、ではなく“道義的に”である。)
 だからやっぱり所有者は、ほとんどノーリスクだと思ってよい。

 ただ、いくら上記のとおりであろうとも――
 とにかく所有者が「安い賃料ではこれ以上貸したくない」と言えば、それはその言い分が通るのである。
 借地借家法が適用される借地であれば(異常なまでに)借りる側の権利が強いが、しかし本件は「他人の土地の上に自分の建物を建てる(所有する)ための借地」ではないので、ただの民法上の借地。
 所有者が「これ以上貸したくない」と決めれば、契約解除は簡単なのだ。
 これだから、町が或る土地を永続的に観光資源にしたいのなら、借りるのではなくぜひとも買っておくべきなのだ。
 おそらく小豆島国際ホテルは今、土庄町に対して「何とかしてくれ」と訴えているはずである。
 民法上の借地では、借りる側の立場は極めて弱い。
 それが借りる側にとって大切な財産であればあるほど、所有者にキン●マを握られているも同然なのだ。

 まず間違いなく土庄町に、「じゃあ賃貸借契約は解除でいいです。これからはエンジェルロードのPRもしません」という選択肢はないだろう。  
 町議会でも問題になり、結局は所有者の求める増額賃料を支払うことになるのだろう。 
 それが「大事な土地を借りた者」が、たいていは辿るべき末路である。

 しかし私としては、むしろこの土地は小豆島国際ホテルが買うべきではないかと思う。
 エンジェルロード(の通行)が死活的に重要なのは、まさにこのホテルだからである。
 もし土庄町が賃料増額や買い取りに踏み切るなら、当然その金額は公開される。(町の予算書に載る。)
 果たして所有者の男性がどのくらいの賃料や買取額を求めているのか、みんなにバレることになる。
 その額によっては、所有者が(地元&ネット界から)一斉に叩かれることも大いにあり得る。
 しかし小豆島国際ホテルが買うならば、(もちろん完全にではないが)ある程度は買取額を秘匿できる。
 土庄町にとっても不利益はほとんどない。
 
(しかしやっぱり、土庄町が賃料増額を飲むのだろう……)