「9900万年前(白亜紀)の地獄アリ(ヘル・アント)が、獲物の昆虫に噛みついたまま閉じ込められた琥珀」
を発見した、と発表した。
その地獄アリというのは(何と)、口が左右に開くのではなく、上下に開くようだとのこと。
加えて、現存のアリにはない「角(ツノ)」も備えているという。
我々は、昆虫もムカデもサソリも、その口器は「左右に開く」のが当たり前だと感じている。
それが「上下に開く」というのは、ちょっと思いつかない光景である。
それはつまり、かつて存在した上下開きの口器を持つ昆虫――間違いなく、今回の地獄アリだけではないはず――が全滅し、左右開きの昆虫しか生き残らなかったことを意味する。
おそらく、昆虫がこの世に出現したとき、既に口が「左右開き」か「上下開き」かの分岐があったと思われる。
そうでなければ左右開きから上下開きが、逆に上下開きから左右開きが分岐していた、ということになるが……
皆さんもそう思うと思うが、そんな変換が果たして生じるだろうか。
全く根拠はないのだが、今回見つかった「口が上下開き」の地獄アリの系統は、
今に繋がる「口が左右開き」のアリの系統とは、別系統のような気がする。
その姿がアリとしか思えないのは、例の(生物界でよくある)収斂進化というものではないか、とも感じる。
さて、それはさておいて――
現在の地球に「口が上下開き」の昆虫がいない(のだろう、たぶん)のは、当然ながら
「上下開きは、左右開きより効率が悪い。適応度に劣る。だから生き残ることができなかった」
という結論を、我々の心に生じさせる。
だが、そうなのだろうか。
上下開きの口が左右開きの口に劣る、
しかも地球上から完全に駆逐されてしまうほど劣る……
というのは、ちょっと本当とは信じがたい気がしないだろうか。
だいたい、そもそもの話だが――
もしそれほどまでに劣るなら、そもそも上下開きの口というのはこの世に生じなかったのではないか。
9900万年前の個体が琥珀の中に閉じ込められて見つかるほど、この世に長く生きていられなかったのではないか。
同じような疑問は、現代における偶蹄類と奇蹄類の、天と地ほど違う反映度の差にも現れている。
脚の蹄が偶数の方は大繁栄し、奇数の方は衰退の一途をたどっている。
もし人類が馬を利用していなかったら、奇蹄類は21世紀中に絶滅確実と言ってよかったかもしれない。
tairanaritoshi-2.hatenablog.com
いったい、蹄の数が奇数か偶数かでなぜこんなに差が付くのか。
口器の動きが上下か左右かで、なぜ前者は絶滅するという違いが出るのか。
いったい生物の特質の何が有利で、何が不利なのか。
口が上下に開くというのは、よく考えれば昆虫(節足動物)以外の「より高等な」生物全て、魚類も爬虫類も哺乳類も、その全てが採用している方法である。
その意味で白亜紀地獄アリは、「より先進的」で「より高度」な進化を遂げていた、と言えないこともない。
しかしなぜか昆虫界では、口が上下に開く系統は完全に失敗した。
そして哺乳類の世界では、なぜか蹄が奇数の系統はすっかり失敗しつつある。
どうしてそうなるのか、これこそ生物学者・進化学者に研究してもらいたい課題である。