プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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木村花のネットいじめ死が世界的反響-SNS規制法「キムラハナ法」はできるか?

 日本の女子プロレスラー・木村花(22歳)が、SNSによる罵詈雑言・誹謗中傷により自死したニュースは……

 日本の著名人らが大勢反応するどころに留まらず、世界的な反響を呼んでいる。

 外国の大手メディア、「フォーブス」「ワシントンポスト」「BBC」「Sport1(ドイツのスポーツ専門局)」らまで、このことに言及している。

 ハッキリ言って、木村花というプロレスラーの本国日本での知名度は、ごくごく低いものである。

 いや、木村花に限らず、今の日本の女子プロレスラーの若手で全国的な知名度がある人間は、一人もいないと言ってもよいだろう。

 ほとんど全ての日本人にとって女子プロレスとは、もちろんそういうものがあることは知ってはいても、

 「まだやってんだね、たぶん細々と」
 
 という程度の感覚しかないだろう。

 ところが今回の事件の反響の大きさは、とてもその知名度に見合わないほど巨大である。

 むろん木村花が、テラスハウスという地上波放送もしていた番組に出ていたことは、要因としてあるとしても――

 それでも、もし彼女が一介の中堅アイドルだったとしたら、これほどの世界的反響を呼ぶとはちょっと思えない。

 ではなぜ、これほど大きく報じられ反響を呼んでいるのか……

 その要因には、次のようなものが考えられる。


●日本の芸能界には、木村花を知っていた人間が多い。

 つまり、一般社会よりプロレスファンの割合が多い。


●プロレスファンは、どこにでもいる。世界中にいる。

 これは、野球ですら及ばない広まりである。(野球は、世界的に見れば市場の限定されたスポーツである)


●そして現代世界のプロレスファンのかなりの部分が、日本の女子プロレスに関心を寄せている。

 プロレス界において木村花は、そして他の女子プロレスラーも、日本にいながら既に「世界規模の有名人」の一人である。


●そして世界においても、プロレスラーや著名人へのネットいじめ・SNS誹謗中傷は、大きな問題となっている(のだろう)。

the-ans.jp

 

www.bbc.com


 そして、以下のことも言っておかなくてはならない。


●22歳の若き(美形の)ヒロイン、かつ現在進行形のトップ選手の死である。


●「プロレスラーが・ネットいじめで自殺」という組み合わせに、(こういうことを書くのは心苦しいが)意外性がある。

 つまり、どうでも人目を引く。(こんなことは書きたくないが)ニュースバリューがある。


 「プロレスは社会の縮図」「プロレスは社会を映す鏡」とよく言われるが、今回はそれが最悪の形で現れてしまった。 

 本当にプロレスファンは、改めてプロレスが社会の縮図であり鏡であることを、嫌というほど痛感したのではないか。


 さて、今回の事件は――

 ちょうど例の「検事総長の定年延長問題」が、「著名人らが突然始めた反対ツイート連鎖」で撤回に追い込まれた直後も直後に生じた。

 そして木村花の死が、ちょうどそれに似た著名人の発言連鎖を生み出している。

 私は、著名人が連鎖して何か言ったから政治が変わる・社会が変わる、ということを必ずしもいいこととは思わないが……

 しかし、この件をきっかけにいよいよ「SNS投稿規制法」みたいなものができる可能性は低くないと思う。

 そうなればソーシャルメディア各社は、それこそAIを使うなりして罵詈讒謗・誹謗中傷の書き込みを、

 即刻削除またはそもそも投稿できなくすることは、比較的容易にできると思うのである。

 
 日本人は、「何か事が起こらなければ対処しない」とよく言われる。

 しかしこれは日本人だけの話ではなく、世界中どこの国の人もそうだと思う。

 そして今、図らずも、その「何か事」が起こってしまった。

 そのきっかけが日本の女子プロレスラーであるなどと、いったい事前に誰が思いついたろう。

 
 ところで欧米では、法律などの通称に「そのきっかけとなった人名」を用いることが通例である。

 例えば「ミランダ警告」とは、被告に「おまえには権利がある」と事前に告知しておかないと、その供述を裁判で利用できない原則を言う。

 これは1966年のアメリカで、ミランダという被告に関する裁判で確立された。

 また、日本の金融商品取引法のモデルとなったアメリカの法律は、その制定に尽力した議員2人の名を取って、「サーベンス・オクスリー法SOX法)」と通称されている。

 日本にはこういう習慣はないが、しかしもし、今回の件がきっかけでSNS投稿規制法ができたとしたら――

 それは海外から「キムラハナ法(ハナキムラ法)」と呼ばれることも、あり得ないではないと思われる。

 
 どうも木村花に対して誹謗中傷を繰り返していた人たちは、プロレスの影響力というものを舐めていたのではないかと思う。

 まさか「たいして有名でもないはずの日本のローカル女子プロレスラー」の死が、海外大手メディアでも報道されるなんてことは、想像もしていなかったのではないかと思う。

 
 誰かの死が何かを変えるなどということは、本来はあってはならない。

 それこそ誰もが政府に対して言うように、「それでは遅すぎる」

 しかし誰かが死なないと(当の「遅すぎる」と言っている)世間は動かないというのも、また人間界の悲しい真理である。 

 
 プロレス界は、木村花という(前途の開けていたはずの)レスラーを失った。

 せめてそれには何かの意味があったとしたい、せめて世の中に名を残しておきたい、と思うのが自然な感情ではあるまいか。