プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

社会、ニュース、歴史、その他について日々思うことを書いていきます。【プロレス・格闘技編】はリンクからどうぞ。

「世界最大のスポーツ興行」東京五輪は新型コロナで中止? イベント経済学の答え合わせ

 2月26日、安倍首相は国民に対し、「今後2週間のイベント中止・延期・規模縮小」の要請を行った。
 もちろん、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐためである。
 そして国際オリンピック(IOC)の長老委員が「7月24日開幕予定の東京オリンピックを開催するかの判断は5月下旬まで」と発言したのを受け、
 同委員のディック・パウンド氏(77歳)は26日、その判断は「5月下旬までする必要がない」と発言した。

www.bbc.com


 これは、同じこと言っているのではないかと思うのだが……
 しかしごく普通に考えると、(予測などできはしないが)5月末までにこのコロナ蔓延が収束しているとはあまり思えない。

 ところでオリンピックとは、言うまでもないが「世界最大のスポーツ興行」である。
 IOCは、世界最大のスポーツ興行団体である。
 言ってみれば、世界最大のプロレス団体であるWWEと同じ業界にあるのであって――
 しかもその規模は、WWEをもはるかにずっと凌ぐ。
 何千億円ものカネが動くのであるから、もちろんIOCだってこんなイベントを極力中止したくない。
 日本政府や関係機関・団体だって同様である。
 
 なんでも、東京オリンピックの経済効果は(招致決定の2013年から、開催から10年後の2030年までで)32兆円に及ぶと言われている。
 それが中止になったら、ものすごい損失だと言うしかない。

 しかし私は、この「経済効果」というものが「現代最大のホラフキ話」だと感じざるを得ない。
 いったいあなたは、東京オリンピックで日本が32兆円分も豊かになると、本気で考えているだろうか。
 これについては、以前も記事を書いたが……

 もしあなたが東京オリンピックに20万円使ったとして、その20万円は「オリンピックがなければその他のことに使われていた」カネである。
 ホテル業界がオリンピックで日本人宿泊客分100億円を稼いだとすれば、その100億円は他のどれかの業界が逸失したカネということになる。
(つまり本当に日本全体に利益があったと言えるのは、外国からの来日客分だけである。)

 こういう経済理解が正しいのかそうでないのか、私にはわからない。
 しかし思うのは、そんなにオリンピックに経済効果があるとするなら――
 今までオリンピックを開催してきた国々は、本当にそんなに発展してきただろうかという疑問である。
 そんなだったら、発展途上国で開催すればすぐ経済発展するではないかという疑問である。
(そういえば、2014年にオリンピックがあったロシアの「ソチ」という街は、発展したのだろうか……)

 ビッグイベントを開催すれば国や地域が大発展する、というのは、「イベント経済学」とも言える。
 それが正しいのなら、モザンビークルワンダと言った国々も、いやあなたの住む街も、年がら年中イベントを開催してれば発展するのだろうか。
 経済発展って、そんな簡単なものなのだろうか。
 それにしては「オリンピックのため建設した施設が、今は廃墟かお荷物になっている」というようなニュースをネットで散見するのは、気のせいなのだろうか。
 
 1964年の東京オリンピックは、戦後日本の復興を加速させた象徴と言われている。
 しかし私は、これもまた現代の神話、俗受けする講談話だと思っている。
 そんなスポーツ興行などなくても、戦後日本の復興の上げ潮は停まりも減速しもしなかっただろう。
 そんなスポーツ興行で経済のファンダメンタルズが強固になるなど、なんともムシのいいお手軽な話ではないか?
 2020年の東京オリンピックが開催されたからと言って、日本の経済的退潮が停まるわけがない。
 そんなので経済が上向きになるのを期待するのは、幻想を追うことである。
 さらに身も蓋もないことを言うと、日本がメダルを何個獲ったからと言って、あなたの生活が微動だもしないのは請け合いである。

 だいたい世界的パンデミックが真剣に懸念されている今、「浮かれたスポーツ興行どころじゃない」と思うのが健全な庶民感覚というものだ。
 
 もちろん、このコロナ騒動が早期に収束すれば問題はないが……
 5月末になっても収まる気配がなければ(再発する恐れがあれば)、「東京オリンピックが世界にコロナを蔓延させた」という汚名を受けないためにも、別に開催中止になってもいいじゃないかと思うのである。