プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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首里城焼失-「歴史建造物完全復元=屋内防火設備なし」はもう諦めよ、「どうせ」オリジナルではないのだから

 10月31日の夜、沖縄の象徴的建造物である首里城那覇市)が炎上した。

 火災は同日13時30分ごろ鎮火したのだが、結局は正殿・北殿・南殿・書院の鎖之間(さすのま)・黄金御殿・二階殿・奉神門の7棟を全焼し、焼損面積は4836㎡に及んだという。

 私は残念ながら首里城に行ったことはなかったが、いつかは行きたいと思っていた。残念である。

 今年4月には、フランスの象徴的建造物であるノートルダム大聖堂が炎上したばかりなのに――

 悪いことは続くものだ。

tairanaritoshi-2.hatenablog.com


 それにしても現代の日本人にとってさえ、「わが街の城が燃える」というのは、やはり一大ショックなのだろう。

 炎上する(と誤解した)会津若松城を見て集団切腹した白虎隊ほどではないにせよ、地元の「城」は現代でも、人民のランドマークであり心の拠り所の一つなのだ。


 さて、今回の火災の原因はまだわかっていない。

 放火か事故かタバコ不始末などの過失か、今のところ何とも言えない。

 しかし報道を見て驚いた・憤りを感じた人が多かったのは、「首里城にはスプリンクラーが備えられていなかった」という点ではないだろうか。

 そういえば、「消火器が備えられていた」とも聞かない。

 もっとも報道によると(那覇市消防局によると)、正殿には「ドレンチャー」という「水の幕」を作り出す装置、及び自動放水銃が装備されていたそうだ。

(ただし、今回の火災で作動したかは未確認。)


 だが、世間一般の人が「建物の消火設備」と聞いて真っ先に思いつくのはスプリンクラーである。

 そういうのが自動で一斉にプシューッと作動するのを、世間の人はアメリカのアクション映画なんかで何度も何度も見ているのである。

 よって、それがよりにもよってこんな大切な建物に装備されていないと聞けば、おかしいじゃねぇかと怒りを感じるのも無理はない。

 私はもちろん首里城に詳しくもないので、なぜスプリンクラーが装備されていなかったのかの理由は知らない。

 なので推測で言うのだが、これはやはり「往時のままに復元すべきだ」というドグマが強く働いたからではないかと思う。

 すなわち歴史的建造物の復元に当たり――

 その天井にスプリンクラーが、

 壁面に赤いランプの火災報知器が、消火栓ボックスが設置されていたら、

 雰囲気台なしじゃないか、だから設置するな、という声が働いたのではないかと思う。


 これはちょうど、いま計画中の「名古屋城天守閣を木造で再築しよう」プロジェクトについて、エレベーターを設置すべきかすべきでないかという論争と同じだ。

 もちろん往時の完全忠実再現を目指すなら、エレベーターなんて絶対に設置すべきではない。

 しかしそうなると、足の弱い人や障害者などは天守閣最上階まで上ることが極めて困難になる。

 それと同じで、首里城の往時の完全忠実再現を目指すなら、もちろんスプリンクラーだの火災報知器だの消火栓ボックスだのは、建物内部に備えるべきではないことになる。

 そしてそうなると、当然ながら火災に対しては極めて脆弱にならざるを得ない。

 
 私はこれについて、「歴史的建造物の往時の完全忠実復元」は諦めるべきだ、という立場を取るものである。

 その論拠としては(こういう言い方はカドが立つが)――

 「しょせん」「どうせ」、そういう建物は模造物であってオリジナルではない、というところに求められると思う。

 この「オリジナルではない」という点は、本当はほぼ全ての人に共感されるはずである。

 どんなに忠実に往時を復元したとしても、やはりそれはどこまで行ってもオリジナルではない。

 これが動産についてなら、全ての人が納得する。

 たとえば「ナポレオン遺愛の万年筆」はオリジナルだからこそ価値があり、その模造品はどんなに精巧でも同じ材質を使っていても、絶対にオリジナルほどの価値はないと誰もが思う。

 動産についてそう思うなら、建物という不動産についてもそう思うべきである。

 「どうせ」それは、どうやったってオリジナルではないのである。

 
 別に首里城の再建に価値がない、などと言っているわけでは全然ないが――

 しかし次に再建するのなら、「往時に忠実にしたいから、防火設備は屋内にやはり設けない」なんてことはないようにしたいものである。

 そして次の再建首里城の天井にスプリンクラーが付いているからと言って、雰囲気を損ねると抗議する人もあまりいないはずである。

(それでも、何人かは必ずいるのだが。)


 今回消失した首里城は、戦後に再建されたものである。(なんと2019年1月に再建完了したばかりだ。不運すぎる。)

 よって、防火設備の設置が義務づけられる重要文化財ではなかった。

 かといって劇場などとも種類が違うため、結局は防火設備を備えなくても構わなかった。

 しかしそれは、かつての王朝や大名のカネで建てたのではなく、国民のカネで建てたものである。

 もうこの理由だけで、たとえ雰囲気を壊そうが、屋内にも防火設備を設けて万全を期すべき理由になると思うのだが……