そごう&西武百貨店に続く2019年の企業CM炎上2件目は、テニスの大坂なおみ選手をアニメ化した日清食品の広告動画であった。
アニメ化された大坂なおみの肌が、本物の黒っぽい肌とは似ても似つかぬ白い肌に改変され――
それがいわゆる「ホワイトウォッシュ」(白人でない者を白人化して描く)だという批判が、海外メディアから一斉に出たとのこと。
これを受けて日清食品は、くだんの広告動画を削除した。
(⇒ BuzzFeed News 2019年1月24日記事:大坂なおみ選手のCMを「ホワイトウォッシング」と海外メディアが一斉に報道)
(⇒ ハフポスト 2019年1月24日記事:日清、大坂なおみ選手のアニメCMを公開停止に 「選手活動に影響があると判断」)
問題の広告動画の画像を見ると、大坂なおみだけでなく錦織圭選手もまたアニメ化されている。
そして肌の色もそうかもしれないが、そもそもこの二人の容姿自体が「美化」されていると感じるのは、私だけではないはずだ。
だがしかし、実在の人物をアニメ化するとはそういうものである。
アニメの世界に美化されていない人物など、基本的には登場してはいけないのである。
おそらくこの報道を聞いた日本人の過半数は、「またまた過剰反応を……」といった感想を抱くのではないかと思う。
しかしやはり、そういった反応及びこの案件自体には、日本人の根深い体質(というか嗜好)が現れていると思う。
「大坂なおみの肌を黒でなく白い色にする」というデザイン案は、どうも人気漫画『テニスの王子様』の原作者が出所のようだ。
しかしもちろんその案は広告作成企業を通過し、発注者である日清食品も通過した。
察するにその過程では、大坂なおみの肌について「コレジャナイ感」をはっきり表明した人はいなかったのだと思われる。
そして多くの日本人も、もし何も言われなければそのことについてたいした違和感は抱かなかったのではなかろうか。
「アニメなんだから、肌の色を変えるくらい別に普通」とでも思っていまいか。
それはやっぱり今の世界の潮流からして、鈍感力が高すぎるというものなのだろう。
さて当たり前の話だが、企業CMである以上、製作者側は何としても世間の「好感度」を得ようとするものである。
そして製作者はごくナチュラルに、「大坂なおみの肌は白くする」ことにしたのだと思われる。
なぜならそうした方が、(日本の)世間の好感度をアップさせるとごくごく自然に考えるからだ。
そして、真に問題であり恐ろしいところとも言えるのは――
そういう見立てが、実は正しいのではないかということである。
肌は白い方が「美しい」というのは、日本の伝統の一つであった。
「肌の白いは七難隠す」というのは、(どれくらい前からのものかは知らないが)昔の人からの言い伝えである。
そして今でも化粧品のCMなどでは、やたらめったら「美白」という言葉が使われる。
小麦色の肌が好きだという男女も非常に多いはずなのに、まるで日本の女性はことごとく肌が「白くなければならない」との強迫観念に取り憑かれているように見える。
つまりこれ、何も「意識の低い」日清食品CM製作者だけがそうだというのではなく、日本の庶民全体が――
「肌が白いのは美しい」
「肌が白くなければ美しくない」
「美しく描こうとすれば肌は白くするのが普通」
という、なんだか三段活用のような「一般常識」を持っている、ということではないだろうか。
おそらくは人種差別意識など何もない心優しい少女でさえ、「可愛い女の子をカラーイラストで描け」と言われて肌を黒く塗る者は、一人もいないのではないかと思われる。
そういえば日本ではアニメの世界ですら、黒人が出てくる例ははなはだ乏しい。
何でもありのような日本アニメですら、その熱心な視聴者ですら「黒人アニメキャラ」には慣れていないのだとすれば――
そして何より根本的に、「肌が黒いのは美しくない」という国民的常識があるとわかっているなら――
それは作り手としては、「黒を白に変える」のがナチュラルな感覚になろうというものだ。
(何でも初代ガンダムでは、「黒人キャラは出さないでくれ」とテレビ局からの規制があったそうだ。)
しかしもはや、その「日本の常識的感覚」が「世界の非常識感覚」だということを、日本人は知るべき時が来たということなのだろう。
あと、ついでにそういえば――
「男の子プリキュア」を登場させたということで話題になったプリキュアシリーズにも、(私は別に視聴しているわけではないのだが)いまだに一人の「黒人プリキュア」も登場しない。
そして推測するに、これから先も何十人もプリキュアは登場し続けるのだろうが、黒人少女プリキュアが出てくることはなさそうである。
おそらく出てくるのは全て「白人みたいな日本人」か、「白人と日本人のハーフ」なのだと思われる。
今の日本では、「男の子プリキュア」を登場させる方が「黒人プリキュア」を登場させるよりはるかにずっと容易なのだ。
ところで私は、「日本人が活躍するからそのスポーツを見る」なんていうのは、この世で最もしょうもない部類のスポーツの見方だと思っている。
というか、よくもそんな動機でスポーツを見る気になるものだと思う。
だから大坂なおみが民族的に日本人と言い切れなくてもどうでもいいし、肌が黒かろうと全然かまわない。
そのスポーツが、競技そのものが好きなのなら、選手が同国人だろうが同民族だろうがどうでもいい話のはずだ。
もしそうでないとするなら、その人は結局そのスポーツが好きなわけでなく、ただの人種主義者・民族主義者であるというだけだ。
だから今後はぜひ、「日本国籍を取った純粋黒人・純粋タイ人・純粋インド人」などが日本代表選手になってほしいものである。
肌が真っ黒だったり、モロにタイ人の名前だったりする人が日本代表選手になってほしいものである。
今だって全国のスポーツの強豪校では、外国人留学生を選手に起用するのが普通なのだから、別に全然かまわないだろう。
だがそうなったとき、日本の世間はどんな反応を見せるのか――
ひょっとするとスポーツそのものより、そっちの方がよほど観戦していて面白いかもしれない……