プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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スプレーが可燃性だと知らない人がいる-札幌アパマン爆発事件の真の闇

 先日記事を書いた札幌市での「スプレー120本を室内で噴射したあげく給湯器を点けて大爆発」事件だが――

 なんで120本も一気にガス抜きをしたかと言えば、2日後の店舗改装を控えて(未使用の)在庫スプレーをカラにしておく必要があったからだという。

 なんでそうしないといけなかったかと言うと、本部から除菌消臭料を獲るためにノルマが課せられていたからだともいう。

 除菌消臭と言ってもただ貸し室にスプレー2本を巻く程度だったらしいが、どうやらそれすら本当はやっていなかったらしい。

 先日書いた記事では、これは「年末大掃除」のためではないかと思ったのだが、それは間違いだったようだ。

(しかしやっぱり、毎日少しずつやっておけばこんなことにはならなかったという点に変わりはない。) 

bunshun.jp

 

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 ところでこの事件で最も驚くべき点は、これをやらかした三十代店長と二十代店員の2人も揃って、どちらも「スプレーの可燃性を認識していなかった」というところである。

 さすがに、こんな真相だとは思いもしなかった。

 私などこの世のスプレー類は全て可燃物だと思っているし、それは人類の常識だとも思っていたのだが――たぶんあなたもそう思っていたと思うが――、実はそれ、全然大間違いだったのである。 
 これを「バカ」と呆れるのはたやすいが、しかし実際はものすごく深刻な問題である。

 アパマンと言えばほとんど知らぬ人もない全国的企業であるし、仮にもその営業店の店長であれば、宅建士の資格くらいは持っていそうなものである。

 しかししかし、その人さえもがスプレーが可燃性だということを知らないのだ。

 そしてさらに、2人いれば1人は絶対知っているだろうと思うところなのに、もう1人さえも知らないのだ。

 このあまりの高確率ぶりは、一つの重大な疑念を人に抱かせずにいない。

 それはつまり、「労働力の劣化」すなわち「国民レベルの劣化」がここまで進んでしまったのではないか、という疑念である。

 これはもう、社員教育がどうとかいう話ではないと思う。

 「スプレーは可燃性なのでガス抜きするときは外でやる」という常識を知らない人が実際にいて、それが普通に全国区企業の店長や社員をやっているというのは、深刻としか言いようがない事態だろう。

 別にアパマンが際立ってバカ社員を抱えているというわけではなく――

 アパマンにしてこうなのだから、全国には「常識」と思われていることを知らない社員や社会人が、どれほどたくさんいるかわからない。

 そう考えるのが自然であり普通だろう。

 この年の瀬、日本の労働力の劣化(というか、二分化なのかもしれないが)は、ものすごく派手な形で明らかになってしまった観がある。

 

 そしてもう一つ深刻なのは、これでますます日本人は「仕事や商売に携わるのは不道徳」と感じるようになってしまう、という点かもしれない。

 むろん不動産業界とは、昔から不透明で怪しげな値段付けをする(とイメージされている)ことで有名な業界ではある。

 今回のアパマンも、

●「除菌消臭作業」とは、ただアパマン社員がスプレー(仕入れ値1000円)を撒くだけの作業であった

●しかし実際は、それすらやっていなかった 

●それなのに客からは1万円超の作業料を支払わせていた

●そして本部からは各営業店に、スプレー使用の(除菌消臭料徴収の)ノルマを課していた

 との疑いをかけられている。


 ただでさえ普通の日本人は、こういうことに敏感である。

 常にボラれるのを警戒し、実際に疑い、他人を儲けさせることを嫌う性分である。

 今回みたいなことが明るみに出れば、ますますその性分は強まるだろう。

 もし今回の疑いが真実だとすれば、それは確かにボッているのだから当然のことだ。

 そして誰も、こんなことをしているのがアパマンだけだとは思うまい。

 会社や業種は違っても、およそ民間企業というのはボッているものだ、客を騙して高い値付けをするものだ――

 という信念は、ますます固まっていくに違いない。

 
 さらに言えば、全国のアパマン社員は(全員ではないにしても)このノルマ制や除菌消臭作業の実態というものを、今まで「知っていて黙っていた」ことになる。

 これは「やっぱり商売やってる奴は信頼できない、悪い奴ら」という信念を助長させるものだろう。

 日本人はますます労働そのものを不道徳な、穢らわしいものと見なし、働くことを積極的に避けようとするようになって当然とも言える。

 おそらく、ネットでよく見る「不労所得でガッポリ稼ごう」「社畜生活からリタイヤしよう」系の記事をクリックし、

 本当にそれを目指し、

 目指さないまでも共感したり「いいなあ」と思う人というのは――

 必ずしも楽に流れるダメ人間というわけではなく、こうした不道徳の世界から足を洗いたい/足を濡らしたくない、という人が相当数混じっているものと思われる。

 だいたい世の中、ワルやズルをして生きたい人より、清く正しく平穏な生活を送りたい人の方が常に多いはずである。

 つまりこの現代、本当に道徳的な人生を送りたいと思うなら、「働いたら負け」というのが正しい選択だということになる……