プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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貴乃花もハマる?「日ユ同祖論」の魅力とは

 先日離婚していたことが報道されたばかりの元・貴乃花親方だが――

 彼が日ユ同祖論(日本人とユダヤ人は祖先が同じであるという論)や新興宗教にハマっている、という記事が、日刊SPAに出ている。

nikkan-spa.jp


 日ユ同祖論――

 それは超人気というほどではないが、根強い人気のある異端日本人・日本文化論である。

 その歴史は太平洋戦争よりずっと前に遡り、2018年の今でさえオカルトサブカル界の定番的話題の一つであり続けている。

 その「証拠」や「根拠」とされるもののうち、有名どころをいくつか挙げると……  


青森県新郷村には「キリストの墓」がある。

●そこで行われる祭りでは、踊り手が「ナニャドヤラ」という意味不明の言葉を発するが、これはヘブライ語で「エホバ進みたまえ」の意味である。

●石川県宝達志水町(ほうだつしみずちょう)には「モーゼの墓」がある。

●四国の剣山には「失われたアーク(聖櫃)」が眠っている。


 などである。

 もちろん歴史学の世界ではこんなことは一顧だにされていないし、

 歴史学者ではない一般人の大多数も、一顧だにしはしないだろう。

 なお念のため、「日本人とユダヤ人はもともと同族である」というのは、「どちらも類人猿から進化してきた」なんて意味ではない。

 あくまで歴史時代(古代)になってから、ユダヤ人の一派が日本へ移住してきたのが日本人の祖先である、という意味だ。

(逆に、日本列島の先住民が中東に移住したのがユダヤ人の祖先だ、とする説は、さすがに(たぶん)ない。)

 
 さて、そもそも私には、日本人とユダヤ人は同族である」というのが、そんなにエキサイティングな話だとは思えない。

 そしてもし、日本人とユダヤ人が繋がっているというなら――

 日本人と朝鮮人、日本人と中国人の方が、どれだけ深く繋がっているかわかったものではない。

 日本人や日本文化の起源の大部分は、朝鮮半島や中国沿岸部にある。

 それはとても常識的な話だと思うのだが、しかし今の日本の国民感情から見れば、そういう話に人気がない/聞きたくない、というのは、まぁわからないではない。


 そしてなぜ日本で、日ユ同祖論が根強い人気があるのかと言えば、やはり――


「自分たち(日本人)は、どうでもこうでも他のアジア人とは違う、違うと思いたい、違うべきだ」


「自分(たち)は特別なんだ」

 
 という意識や願望が根底にあるのではないかと思う。

 そしてさらにその底には、


「自分が、平凡で常識的な存在であるのは嫌だ」


 という、やむにやまれぬ衝動があるのかもしれない。

ユダヤ人は優秀だ、だから迫害されている、という俗説が、他のどの民族でもなくユダヤ人を選ばせているのだろう。

 「失われた十二支族」なんてロマンある伝説があるのも好都合だ。)


 しかし、仮に日本人がユダヤ人の流れを汲むからと言って、だからそれが何なのか。

 確かに歴史的には非常に興味深いことではあるが、それが現代日本の一個人(自分)にとって何だというのか。

 この世に他に際立って優秀な民族などおらず、いるのは優秀な個人だけである。

 別に日本人だからってユダヤ人だからってアーリア人種だからって、その人個人が優秀だとか民度が高いとかいうことには絶対ならない。

 そんなことは誰でもわかっているはずだ。


 いくら「日本スゴい」「日本人は優秀」という記事や話が好きな人だって――
 
 実生活で自分が本当に嫌いな人は「身近な日本人」である、という現実からは逃れられない。
 
(そうじゃない日本人って、どれくらいいるのだろう。)


 しかし「自分(たち)は特別」「自分(たち)は平凡じゃない」と思いたい願望は、そんな常識や現実さえ霞めてしまうほど強烈なパワーを持つので……

 今後も当分の間、日ユ同祖論のファンというのは存在し続けることだろう。

 世に偽史とオカルトと陰謀論の種は尽きまじ、である。