プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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昭和天皇、戦争責任をグチる-「王もまたフツーの一般人」である

 晩年の昭和天皇に仕えた侍従の日記が(家族が保管していて)見つかり、死の2年前の1987年の昭和天皇(当時85歳)が、


「仕事を楽にして細く長く生きても仕方がない。

 つらいことを見たり聞いたりすることが多くなるばかり。

 兄弟など近親者の不幸にあい、戦争責任のことを言われる」


 と、絵に描いたような高齢者のグチを言っていたことが報じられた。

www.huffingtonpost.jp


 さて、昭和天皇に戦争責任があるかないかというのは、戦後日本の最大の問題の一つだったが――

 はっきり言って、ないわけがない。

 帝国の君主で、全軍の頂点に立つ大元帥のポジションにある人間に責任がないとしたら、これは途方もない話だ。

 いくら「当時の天皇は実はお飾りで、軍部の言いなりになっていた」という話が本当だとしても、

 現代で同じ立場にある(実権がない)社長に会社の不祥事の責任がないのかと言えば、いくらバリバリの右翼だってそんなことは決して言わないし思わないだろう。

(それどころか、当の社長をネット上でボコボコに叩きそうである。)


 一方、あれだけの戦争で全面敗北したにもかかわらず、退位もせずに君主であり続けたというのは、これまた世界史的には途方もない話だ。

(きっと世界の全歴史を見ればそういう例もあるのだろうが、なかなか思いつかない。)

 そしてまた、昭和天皇に戦争責任があるとしても、どういう風にその責任を取るべきだったか――

 そしてどういう風に叩くべきだったのか、あんまりピンとくる人はいないように思う。

 たとえば第一次大戦でドイツ皇帝だったヴィルヘルム2世だが、彼は退位してオランダに亡命した。(それで帝政も終わった)

 じゃあヴィルヘルム2世はボコボコに叩かれるべき人間なのか、ヒトラーのごとき戦争犯罪人・極悪人として位置づけられているのかと言えば、現代のドイツ人でさえそうは思っていないような気がする。


 それにしても思うのは、やはり(当然にも)昭和天皇もごくごく普通の人間でありおじいちゃんであった、という感想である。

 率直に言って、昭和天皇の生前の音声動画などを見ると、昭和天皇という人物は――

 その挙動にかなり違和感があり、喋り方もどこかヘンな感じを受ける。

 この感じは、これもまたバリバリの右翼や尊皇家にとっても、拭いがたい印象ではないかと思う。

(動画はYouTubeなどで検索されたい。)


 もしこの人が天皇と知らなかったら、誰もが「ちょっと変わったおじいちゃん」と思いそうな挙動・喋り方なのである。

 人は見かけによらない、とは言うものの――

 まさかこの人が「偉大な聖帝」だなどと思う人、そんな風格を感じると自信を持って言える人は、前知識と先入観なしでは誰もいないだろうと思う。

 
 そして今回のこの報道――

 「戦争責任のことを言われるのがツラい」とは何事か! と怒り出す人もいようが、

 しかし私は逆に、これがフツーの人間の感覚・感慨だと思うものである。

 きっと、私やあなたがたまたま天皇家に生まれて天皇になり、大戦争と敗戦を経験してそれでも天皇として在位していたとしたら……

 きっとこんなようなグチめいたことを心底思い、口にも出すに違いないと思うのである。 

 
 おそらく昭和天皇は、歴代天皇の中でも世間一般の基準としても、「凡庸」に該当する人物だったのではないかと思う。

 特に目立って英明でもなく、陰湿な侵略者的人格でもなく――

 それでも何の因果かあの時代に天皇になり、敗戦を迎えることになってしまった「ただの一般人」だったのだと思う。

 大元帥なんて肩書きを自動的に持つ世襲君主というのは、そんな地位に就いてしまう一般人にとって、非常にリスクがありまくる……

 と、思わずにいられないのである。