これはいささか衝撃的な判決である。
アメリカのロサンゼルス裁判所は3月30日、あのスターバックスなど大手販売業者に対し、コーヒーは発がん性がある旨の警告表示をするよう命令した。
販売業者側は、発がん性がない(あるいは極めて低い)という証明ができなかったという。
もっとも、名にし負う「アメリカの裁判所」のことである。
これもまた例によって極端な、アメリカではちょくちょくある、一種の「トンデモ判決」と見なす向きもあるだろう。
とはいえこの判決、コーヒーメーカーや販売業者にとって激震ものだと思われる。
要するにこれは、コーヒーがタバコと同類みたいなものだと言っている(言わされることになる)ようなものだからだ。
こう書いてみて気づいたが、確かに昔から「コーヒーとタバコ」は、「不健康な男の生活」の象徴的な嗜好品の組み合わせでもあった。
(言い方を変えれば、「ハードボイルドな男」の象徴的なものでもある。)
言うまでもなくタバコは全世界的な排撃の的にされてしまっているのだが――
とうとうコーヒーも、長年のパートナーと運命的に道連れになってしまうのだろうか……?
だが、このニュースを目にした人は、ほぼ間違いなく違和感を抱いたものと思われる。
なぜならコーヒーとは、逆に「ガンの発生を抑える効果がある」というのが、最新の「常識」だったからである。
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この「常識」を信じて、1日に何杯もコーヒーを飲むよう心がけている人だって、全国には何万人もいるはずだ。
それでなくても「何の食品が体に良くて、何の食品が体に悪いか」というのは、非常に人気のある話題なのだが……
よりにもよって、逆に「コーヒーに発がん性がある可能性がある」なんて想像もしなかった人って、これまた何万人もいるのではなかろうか。
そう、この「何(の食品)が体に良くて、何(の食品)が体に悪いか」という話題こそ――
魑魅魍魎というか諸説横行というか、ありとあらゆる説が行われている分野は他にないと言ってよい。
逆に言うと、コーヒーが体に良いのか悪いのかさえ、今の科学は解明できていないのだ。
「人類は宇宙のことは割と知っているが、深海のことはかえってほとんど知らない」なんていうセリフはよく目にするが……
この伝で行くと、
「深海のことはそこそこ知っているが、コーヒーの発がん性についてはほとんど知らない。
それどころか、正反対の説が入れ替わり立ち替わり出てきて、決着の付く気配すらない」
ということになるだろうか。
なんかこれ、大袈裟に言うと、「科学の危機」みたいな感じさえする。
人類にはまだ、こんなことさえわかっていないのである。
それはともかく今回の判決、コーヒーで生計を立てているのではない人にとっては、なかなか興味深いことになりそうだ。
はたして天下のスターバックスらは、この判決にどう反撃するのだろう。
今度こそ医療専門家ら(と資金)を結集して、コーヒーの有害性を否定する証明ができるだろうか。
それはまさにタバコ業者がずっとやってきたことなのだが――
近未来のコーヒー関連業者は、世間からそれと同じような目で見られるのだろうか。
端的に言って、スターバックスはじめコーヒー業界は壊滅とまではいかずとも、衰退産業になってしまうのだろうか。
スタバは「オシャレ」どころかアングラな店として認知される日が来るのだろうか。
特に女性は、何が体に良いか悪いかについて、男性よりずっと敏感なものである。
(これは、女性たち自身がしばしば言ったり誇ったりしていることだ。)
やはりコーヒーとタバコは、そのかつてのポジション――
すなわち「あまりまっとうでない男」の好きなもの、というポジションに戻るのかもしれない。
そしておそらく次にターゲットになるのは、アルコールすなわち酒なのだろう。
私としては、
「何であれ、食べ過ぎ・飲み過ぎは体に悪い。
そうでなければ、昔から人類が嗜んできたたいていのものに、そんなに害はない」
という穏健論が正しいと思うが……