これは、こういうことに興味のある人にとっては誠に興味深いニュースである。
約9000年前のイギリスで暮らしていた男性の頭蓋骨をDNA鑑定にかけたところ――
その肌は「濃い色から黒にかけての色」で、縮んだ黒髪を持ち、青い目をしていたことが判明したというのだ。
端的に言えば1万年くらい前の“イギリス人”は、「青い目の黒人」だったということである。
これはつまり、
●肌が黒から白になるのは、たった1万年ほどしかかからない。
●目が青くなる方が、肌が白くなるより早い。
●目が青くなる方が、髪が金になるより早い。
ということを示している。
そして「人類はアフリカで生まれた」という定説に基づけば当然のことながら――
「体毛を失った最初の人類は、やはり黒人だった」
「棍棒を持った原始人は、やはり黒人だった」
ということにもなりそうだ。
もちろん今回の分析は、たったサンプル1体の分析である。
たまたまそのサンプルになった人が、圧倒的少数派であるはずの「青い目の黒人」だった、という可能性もあるだろう。
つくづく考古学と古生物学というのは、たった一つの発見・発掘で今までの説がひっくり返ったり揺らいだりする、はなはだ不安定な学問分野の代表である。
とはいえここは専門家たちを信頼し――
1万年前のイギリス定住者らは、肌は黒人だったとする。
これは、進化の速度というものについてずいぶん考えさせられる結果である。
もちろん、肌の色が変わるのは単なる「変異」で、「進化」とはワケが違うとも言える。
肌ではないが、昆虫の羽の色がたった50年ほどで白から黒に変わる――
というのは、「オオシモフリエダシャクの工業暗化(工業黒化)」として非常に有名である。
人間の肌が黒から白に変わるのは、「日光が少ない場所でより多くのビタミンDを吸収できるよう」になるためだとされているが――
ということは、今のヨーロッパの白人が全滅し、純粋な黒人や黄色人種が代わって入植したとしたら、1万年後にはみんな肌が白くなってしまうのだろうか?
そしてまた、今もなお日光の少ない(はずの)シベリアで暮らすツングース系の諸民族も、あと1万年もすればみんな“白人”になるのだろうか?
どうもこれ、私には「早すぎる」ように思えるのだが、どうだろう。
肌が白いのは、たった1万年でみんなそうなるほど、生存(と生殖)に有利だったのか。
瞳が青くなるのは、肌が白くなるより先にみんなそうなるほど、生存と生殖に有利だったのか。
なんとなくの思いつきではあるが……
かつてヨーロッパの人類は広範な絶滅を経験し、「たまたま」白っぽい肌の集団が生き残ったのかもしれない、と思えてくる。
しかしではその前に「たまたま」青い目をした集団が生き残ったような破局があったのか、と問われれば、そんなことが二度以上も続くとは考えにくくもある。
生物の進化と変異には、まだまだ多くの謎がありそうである……
それも、たった1万年前のことについてさえ。