プロレスリング・ソーシャリティ【社会・ニュース・歴史編】

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アメリカの新核戦略とロシアの「大陸間核魚雷」-反核団体・被爆団体のマーケティング論

 アメリカのマティス国防長官は1月19日にアメリカの新国防戦略を、2月2日に新核戦略を発表した。

 従来の対テロ戦争から舵を切り、伝統的な国家間戦争に対応・回帰しようとする内容だという。

(⇒ Newsweek日本版 2018年1月22日記事:アメリカの新国防戦略、中ロとの競争を柱に 対テロ戦争から転換)

 

(⇒ ParsToday 2018年1月20日記事:アメリカ国防長官、「アメリカの軍事面での優位性は喪失」)

 

(⇒ AFP通信 2018年2月3日記事:米、小型核弾頭の開発表明 8年ぶり指針で戦略転換)

 
 今後のアメリカは“使いやすい(実用的な)”小型核兵器の開発を進めると言い出したわけだが――

 「世界の軍事情勢に興味はあるが、しかし毎日ウォッチしているわけではない」人にとって、この宣言は「まだそんなことやってなかったの?」と思ってしまうのではないだろうか。

 思えば1950年代や60年代のアメリカは、大砲から砲弾として打ち出す野戦用の「原子砲」を作っていたはずである。

 あれはいったい、どうなってしまったのか……

 なんと世界ぶっちぎり軍事大国のアメリカは、どこの国でも開発を進めそうな小型核兵器というものを、長年なおざりにしていたということなのか?


 それはともかく今回の新核戦略というのは、まずは常識的な方向性である。

 イスラム国は話題から消え、「正道・常道」である対国家戦略が主軸になり、使えもしない大型核兵器よりずっと実際的な小型核兵器を増やすというのは――

 大部分の社会人が普通に理解でき、自分でもそうすると思うようなことではなかろうか。


 しかし今回の報道で最もインパクトがあるのは、アメリカ国防総省の言及したロシアの「大陸間核魚雷」である。

www.cnn.co.jp


 ロシアは(アメリカの諜報によると)、大陸間の海中を進む「原子力推進の」魚雷(潜水艦ではない)を開発中だそうだ。

 それは敵国の沿岸で爆発すると、広範な核汚染(放射能汚染)を生じるように作られているという。

 これは新しい発想と言えば新しい、しかしいかにもアメリカのスパイアクション・SFアクション映画に出てきそうな兵器である。

 もちろんこの手の核ミサイルと言えば、陸上や水中(潜水艦)から発射され、高高度の空中を飛行して敵国を狙う。

 しかし迎撃ミサイルで阻止されてしまう可能性は年々高まっていくのだから、ミサイルに海の中を進ませてしまえという発想は“健全”である。

 これは我ながら思うのだが――

「空を飛ぶ(迎撃されやすい)ドローンなどより、地を這うヘビ型・アメーバ型兵器の方がはるかに戦場では有効」

 という考えを、ロシアという軍事大国も共有しているように感じられる。

tairanaritoshi.blog.fc2.com


 さて、アメリカの新核戦略の報道を受け、日本の被爆者・被爆者団体・反核団体は――

 例によって例のごとく、「怒り」「衝撃を受け」「危機感を持ち」「いきどおって」いる。

(⇒ 朝日新聞 2018年2月3日記事:「地球市民の願いに逆行」 被爆地、米の新核戦略に反発)

 

(⇒ 毎日新聞 2018年2月3日記事:トランプ米政権 核態勢見直し 被爆地に衝撃 「無知」に危機感)

 

(⇒ NHK NEWS WEB 2018年2月3日記事:米の新核戦略 被爆者「非常に怒り」)

 
 “例によって例のごとく”と皮肉った書き方をするのは――

 こういう反応が、もう決まりきったワンパターンな反応だからである。

 もう日本人は、こういう被爆者団体や反核団体の反応に完全に飽きており、「はいはい、いつものこと」とバカにさえしている……

 これが現代日本の、本当の世情・世論ではないだろうか。

 こんなことでは「核廃絶の願い/祈り」というものは、いずれ国民の内心で冷笑しか浴びないことになってしまうと案じられる。


 この“飽きられること”を避けるには、もちろん新鮮味を出すしかない。

 具体的には、アメリカだけでなくまさにロシアの核魚雷にも声を上げることである。

 核兵器保有が公然の秘密となっているインドとパキスタンにも――

 もちろん北朝鮮やイギリス・フランス・中国といった既存核大国の核開発・核政策に対しても、とにかく反応を見せることである。

tairanaritoshi-2.hatenablog.com


 何ともマズいではないか……

 被爆者や反核団体の怒りや憤りは、アメリカに対してしか示されないなどと思われてしまうのは。アメリカにしか主たる興味がないのだ、などと思われてしまうのは。

 
 被爆者らに「インドとパキスタンはマジで対立してるので(よく知らないので)、怒りの声を上げるのは遠慮しときます」などといった真意がもしあるのなら、核廃絶への願いが純粋であるなどとはとても言えない。

 とにもかくにもマーケティング的にも――

 今後はアメリカ以外の国の核戦略に対しても、反核団体は厳しく非難すべきである。

 新鮮味を出せば、支持も増える。

 今のままでは反核団体は、理想や言論の「消費者」離れによって衰退していくばかりだろう。