ネットを見ていると、『社会人の日本語』(山本晴男・著、クロスメディア・パブリッシング刊)という本のプロモーション記事に行き当たった。
私はこの本を読んでいないし買うこともないだろうが――
しかしプロモ記事を読んだだけで感想を言えば、「やはりビジネスマナー本とは、日本人の封建土人性をますます高めていく」というものである。
この本には、「取り急ぎお礼申し上げます」というメールを取引先に送ったら「失礼だ」と怒られた、というエピソードが載っているらしい。
「取り急ぎ」という言葉には「本来の手続きを略して、用件のみ伝える」というニュアンスが含まれるから、お礼の意味では不適当だかららしい。
これは私には失敗例と言うよりも、「そう思うからそう思う」の典型例だと感じられる。
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そして、取引先に「取り急ぎお礼申し上げます」というメールを送ったら「失礼だ」と怒られるなんて経験をすれば、日本人が仕事というものにウンザリしてしまうのも無理はないと感じられる。
日本人は(意外にも)他国人に比べて仕事への忠誠心が実は低い、というのは最近よく知られてきているが、こんなことが仕事上で起こっているならそれも宜なるかなである。
私など、相手が「取り急ぎお礼申し上げます」というメールを送ってきたら失礼だと怒り出す人間には、絶対なりたくないものだと思うのだが……
たぶんこの本を読んだ人間は、今度から相手が「取り急ぎお礼申し上げます」というメールを送ってきたら――
「あ、コイツ“取り急ぎ”って使ったwwwwwww」とか、
「コイツわかってねぇ(嘲笑)」とか、
心の中で思うのだろう。
そして、「なんて失礼なんだ、教育が(教養が)なってない!」などと本気で思うようにもなるのだろう。
これは、なんと陰惨な光景だろうか。
もう一例、上司に「基本、まかせる」と言われたときの受け取り方が挙げられている。
これは本当に任せたという意味ではなく、「今はとりあえず」「今はかまってられない」というニュアンスがあるそうだ。
そして後になって「まかせるなんて言ったか?」とばかりに、口うるさく指示が入るのが常なので、そういう真意を汲んでおくのが大事(有益)だと書いてあるらしい。
しかしこれ、言葉の真意がどうとか言うより、こんなこと言う上司の方がオカシイのではないか。
「基本」というのが「とりあえず」という意味なのは確かにわかる――
(納得しているというのではなく、世間ではしばしばそう使われているのを知っている、という意味で「わかる」。)
だがこれを、「上司の物の言い方」の問題ではなく受け取る側の問題としているのが、日本のビジネスマナーとかビジネスコミュニケーション術というものの特質だと言えようか。
我々がこういう“真意”を汲み取らなければ立派な社会人とは言えない――
とするならば、まるでシャーマンやマジナイ師のメッセージを読み取らなければならない土人の生活である。
我々が一人前のデキる社会人と見なされるためには、一人前の土人にならなければいけないということである。
いったい外国では、こういうビジネスマナーなるものを教えているのだろうか。
それについて書かれた本を買う人がそんなにいるのだろうか。
どうも日本のビジネスマナー講師(や、それに類する人々)というのは、土人の村の祈祷師や導師に見えて仕方ない。
しかしそのイタコみたいな人たちの書くことを「自分の意見・考え方」にする人もきっと多いのだろうから、日本が封建土人国から抜け出すことは、なかなか難しそうである……