今回の記事は、先日の記事の続きである。tairanaritoshi-2.hatenablog.com
これについて、メディアの2つの記事を紹介する。
日テレの方は、所有者男性が(顔を出さずに)インタビューに答えている。
所有者男性は4年前(2013年)に島の所有権を相続し現地に行ってみたところ、今にも崩壊しそうな斜面がいくつかあったため、土庄町(とのしょうちょう)に安全工事をお願いしたという。
しかしもちろん、個人の所有地を町が(町のカネで)工事することはできない/してはならない。
またこの島は国立公園の範囲内なので、大規模な工事はハナからできないそうである。
(しかし男性は「町が安全工事することを条件に」島を貸すことにしたとも言う。矛盾である。
もっとも、町のそのときの担当者が“国立公園内では大規模工事はできない”ことを知らなかった、というのはありそうなことだ。)
土庄町は所有者男性から「観光客が崖によじ登って滑落したり、ケガをして損害賠償を求められたら困る」と言われたため、では島を町が借りることにして――もしそんなことがあったら町が責任を取るという意味で、賃貸借契約を結んだとのこと。(土庄町商工観光課・談)
その賃料は、わずか年間2,500円。
それでも所有者男性は「それで安全が確保できるなら」ということで応じたらしい。
年間2,500円の賃料とはバカにしたような安い値段だが、先日の本ブログ記事で述べたように、ただの山林の賃料なんてこんなものである。これが借り賃でなく購入価格だったとしても、驚くほどのことではない。
町が土地を借りるときはその土地の固定資産税評価額を元に賃借料を決める(申し出る)のが定番であって――
そして固定資産税評価額には、その土地の「観光価値」が反映されることはない。
それはともかく土庄町は「注意看板」1枚とロープ柵を設けただけであり、いっこうに工事することなく2015年には年間賃料が396,000円にアップしたらしい。
(この値上げが所有者男性の要求によるのか町の自発的申し出によるのか、定かではない。)
そして今年2017年4月、業を煮やした所有者男性は、賃料を支払いに来た町の担当者に「考えとることがあるんや」と伝えた。
ここでオヤッと思うのだが、普通は町から(会社からでもいいが)個人に賃料を支払うのって、銀行口座振り込みではないだろうか。
土庄町は田舎だから、で済む話なのかもしれないが――
わざわざ396,000円を現金で所有者の自宅に持参するなんて、ちょっと違和感がないだろうか。
(それともまさか、毎月33,000円を払いに行っているのだろうか?)
とにかく所有者男性は、非常に「安全対策」にこだわっている。
土庄町によれば観光客がケガしたときの責任は土庄町が負うことになっているはずなのだが、それでも安全対策を求めている。
ただ先日のブログ記事でも書いたとおり、「観光客がガケによじ登ってケガした」からといって、別に所有者が責任を負うわけではない。
あなたの所有する山の岩肌を誰かが上って転落死したからといって、あなたが損害賠償責任を負うわけはない。
それでも心配だというなら、町との賃貸借契約書に、
「万一所有者が責任を負うことがあれば(賠償金を払うハメになったなら)、町がその金額を全額肩代わりする」
との条文を入れておけばよい。
しかし、それでも所有者が
「とにかく、ちょっとでも訴えられる可能性があるのはイヤだ。
とにかく、ウチの所有地で死人や怪我人が出ること自体がイヤなんだ」
と言えば、それで賃貸借契約を終わらせてしまうことができるのが、民法上の賃貸借の弱さなのだ。
なお、土庄町が「安全工事」に消極的なのは理解できることである。
国立公園だから云々という話はさておいて、そりゃフェンス設置や法面工事なんかをやれば、せっかくの景観を損ねてブーイングが出るのは確実だからである。
(たぶん、地元の観光業者・ホテルからも大反対されるだろう。)
ところで土庄町と所有者男性の言い分には、いくつか食い違うところがある。
●賃貸借契約の継続期間 … 所有者男性は「今年5月に契約は切れた」と言い、町は「来年4月中旬まで継続している」と言う。
●賃貸借条件 … 所有者男性は「町が安全工事を行うことを条件に」と言い、町は「国立公園なので(そんな大がかりな工事は)できない」と言う。
●事故の場合 … 所有者男性は「損害賠償請求されたら困る」と言い、町は「町が対応すると考えている」と言う。(何だかボカした言い方に感じるが、「町が責任を負う」と言っていると思っていいだろう。)
もちろん、この食い違いの真相は一発で明らかにできる。
町と所有者男性との間の賃貸借契約書を公開すればいいのである。
こう言うとすぐ「いや、個人情報に関することだから」と町も所有者もどちらも難色を示すだろうが――
別に個人名や住所などはどうでもよく、契約条文だけ読めれば全く問題ない。
あの国と森友学園の定期借地権契約書のように墨塗り箇所があったとしても、まさか契約期間くらいは墨塗りにするわけにはいかないだろう。
だいたい、卑しくも公共機関が誰かと結んだ契約が「公表できない」なんてことはおかしいのである。
町が公開しないのもおかしければ、相手方が公開に反対するというのももっとおかしな話である。
町と誰かさんの契約書って、そんなに公表されたらマズいことが書いてあるものだろうか?
こういう“事件”が起こるたびに思うのだが、公共機関が結ぶ契約書というものは、全てことごとく「公開が原則」ということにすべきである。
相手方の方もそれを当然と思うべきである。
そうすれば誰かさんの「口利き」も「忖度」も「密約」も、少しは影を潜めることだろう。
所有者男性は「安全対策さえ取ってくれたら、お金は二の次です」と言う。
しかし厳しい言い方をすれば、もちろん誰でもそう言うのである。
たとえそれが本心でも、「どうせ賃料の釣り上げが目的だろう。そうじゃなけりゃ、ひねくれた人間なんだろう」と思われるのは世の常である。
当然所有者男性も契約書は持っているのだから(まさか口約束と言うことはあるまい)、それをマスコミに公開してはどうか。
あるいはもう誰かがやっているのかもしれないが、土庄町に情報公開請求してみてはどうだろうか。
さて、以上のことどもより更に強く思うのは――
そもそもエンジェルロードが“恋人の聖地”だとか“大切な人と手をつないで渡ると天使が舞い降り、願いがかなう”とかいうのは、とんだデタラメのデッチ上げの話だ、ということである。(しかもこんな話ができたのは、つい最近のことだ。)
しかし現に、そのデッチ上げの迷信が人気を集め、年間20万人が訪れる観光名所になっているという事実である。
なんだか「踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らにゃソン、ソン」という有名なフレーズを思い出してしまうのだが、
そしてこんなことを真面目そうに書くのもヤボで的外れだとはわかっているのだが――
その一方、とにかく人間は「物語」を求めていることを思い知りもする。
人間は“評判”さえあれば、行ってみよう・行ってみたい・見てみたい・買いたい――と付和雷同するものなのだとつくづく感じる。
そりゃ私も、こういう“ただの砂州”という地形が大好きなのではあるが……