何か最近、本気で北方領土が返ってきそうな勢いである。
もっとも4島全部が返ってきそうではさすがになく、歯舞群島・色丹島の「小さい2つ」が日露交渉の焦点になっているようだ。
内閣府の北方対策本部のサイトとウィキペディアを参考に、北方四島の概略を示そう。
1 択捉(えとろふ)島
面積:3,166.6平方キロ(鳥取県3,507平方キロに近い)
人口:約6,700人(2006年)
備考:火山島。今でも年間2万トンのサケ・マスの水揚げがあるなど水産資源が豊富。
2 国後(くなしり)島
面積:1,489.3平方キロ(沖縄本島1,207平方キロより広い)
人口:約6,800人(2006年)
備考:火山島。景勝地や温泉多数に恵まれる。
3 色丹(しこたん)島
面積:248.9平方キロ(鹿児島県の徳之島248平方キロとほぼ同じ大きさ)
人口:約2,200人(2006年)
備考:島全体が高山植物地帯で、緑に覆われた丘陵が連なる。
4 歯舞(はぼまい)群島
6島の総面積:94.8平方キロ(北海道の礼文島よりやや広い)
人口:国境警備隊員のみ(人数不明)
備考:樹木はほとんどなく、ロシアの「警備隊」がいるだけ。
……どれもこれも、面積に比して非常に過疎地である。全部合わせても1万5,000人程度しか住んでいない。
しかし、もし四島のうち二島でも返ってくるなら、これは日本の戦後外交史上最大の出来事である。
まさかあのロシアが一度獲得した領土を返すなどと、つい最近まで本気で思っていた日本人は少なかっただろう。
こんなことが実現すれば、リオオリンピック閉会式での「安倍マリオ」などジョークに過ぎないほどの、安倍政権の大功績になる。
「領土が増える」ということは、戦後日本人が経験したことのない事態である。
(ただし、戦後20年ではどうしても無理だったが、70年以上経ったからこそ可能になったと見ることもできる。そういうことって、世の中にはよくあることだ。)
ところで日本には周知のとおり、北方領土の他にも国境問題・領土問題が存在する。
そして「島」と言えるのかどうか問題の(東京都)沖ノ鳥島も入るだろう。
しかしこれら全ての中で、日本人の北方領土に対する熱は明らかに最低である。
竹島も尖閣諸島も、それが日本の領土と確定したからといって、日本の社会・経済に与える影響はほとんど何もないだろう。(防衛面ではまた別としても)
だが、北方領土は段違いに違う。
北方領土が名実ともに日本領となれば、日本にとって空前絶後と言いたくなるようなインパクトがあるのは間違いない。
それなのに、竹島・尖閣となると熱くなる人が北方領土についてはかなり冷めているように見えるのは、やはり相手が違うからだろうか。
韓国・中国は大嫌いだが、ロシアに対しては(白人でもあるし)「恐(おそ)ロシア」とは感じても敵愾心は掻き立てられない――
それともロシア人がホントに領土を返すはずがないと思い込み、いくら言っても無駄だと感じていたからだろうか?
正直日本人は、北方領土って返ってこなくともいいと思っていたと思う。別にそんなに関心なく暮らしてきたと思う。
そして、もしこのたび色丹・歯舞だけが返って「国後・択捉はもう二度と戻ってこない」と確定しても、それはそれでいいんじゃないのと思う人が多いと思う。
二島(全面積の7%)だけでも返ってくれば儲けもの、他の二島(全面積の93%)まで全部返せと言い続けるのは、さすがにムシが良すぎるし頑迷すぎる――
これがたぶん、日本人の平均的な感想だろう。
さて、戦後初の領土拡張が実現したとして――
しかしそれが北辺の過疎の島々だったとしたら、それにはどんな利用価値があるのだろう?
私が真っ先に思いつくのは、廃棄物の処理用地としてである。
いま日本は、廃棄物の処理先に困っている。(「廃棄物 問題」などでググれば、そんな話題がいくらでも出てくる。)
そこに小なりとはいえ、日本本土から相当程度に離れた過疎の島々をゲットできたとしたら……
廃棄物業界には何の縁もない私がすぐこんなことを思いつくのだから、廃棄物業界の人はけっこう熱い視線を色丹・歯舞に注いでいてもおかしくはない。
歯舞諸島なんて、本当に国境警備隊しかいなくて住民がいないのなら、樹木という自然もほとんどないのなら、まさに格好の適地である。
(むろん、実際はどんな土地なのか私は知らないが。)
おそらく北方二島が返還されて最も熱くなるのは、観光業界と漁業界だろう。
しかし密かに、廃棄物業界はそれに次ぐものと思われる。
二十一世紀半ばの色丹・歯舞が巨大な廃棄物処理場(埋設場・堆積場)になっている光景というのは、かなり現実味があるのではないか?