10月2日付け時事ドットコムのニュースによると、スウェーデンが2018年から徴兵制を復活させるらしい。
同国では2010年に徴兵制を廃止していたのだが、専門家いわく「志願制では質も量も維持できないとわかった」からのようだ。
徴兵は18歳から男女問わず対象となり、毎年4,000人の新兵を確保できるとのこと。(スウェーデンの総人口は960万人)
スウェーデンと言えば、平均的な(ちょっと高年齢の?)日本人が思いつくのは「ポルノ」「フリーセックス」という言葉である。
そして次に思い浮かぶのが「永世中立国」との言葉だろうか?
しかしスウェーデンは「砲塔のない戦車」とか独自の兵器を開発し、同国ボフォース社のボフォース砲は日本の海上自衛隊の艦船にもよく搭載されている。
(つまり、兵器輸出をやっている。
なお現在、ボフォース社はサーブ社に吸収合併され「サーブ・ボフォース・ダイナミクス社」になっている。
このサーブ社も「ヴィゲン」などの独自戦闘機で有名な軍事企業で、無反動砲「カール・グスタフ」はこれまた陸上自衛隊が採用している。)
それにしても我々は、徴兵制なんて過去の遺物で非効率で非現実的なやり方だ――
兵士一人一人に高度な能力が要求される現代戦では、そこらの素人を集めてみても役に立たない、などと聞かされていたはずである。
だからスウェーデンも止めたのだろうが、たった8年で復活の見込みとなった。
しかもその理由が、量はともかく「質も維持できない」からだという。
これはけっこう、衝撃的と言えば衝撃的な結果発表ではないだろうか?
しかし考えてみると、全国民の中の一握りの志願者より、全国民を対象とした方が「多様な能力」を持った人材をたっぷりと確保できるのは自明である。
特に見込みがある人にはスカウトをかけてみればいいのだし――
中には「徴兵制がなければ軍に入ろうなどと思いもしなかったが、入ってみたら意外と自分に合っているので正式に軍隊入りすることにした」人も多くいるだろう。
なお、永世中立国として世界で最も有名なのはスイスだろうが、そのスイスも徴兵制の廃止を国民投票にかけて3度も否決されている。
これは「日本人の感覚では理解できない」ことだろうが、やはりスイス人も「徴兵制の効用」というものを重く考えているということなのだろうか?
さて、まず断っておくと、私は徴兵制が嫌である。
自分はもう徴兵年齢を外れている(かもしれない)ことは除いて考えるにしても、とにかく集団生活というものが骨の髄まで嫌いだからだ。
しかしそれでも徴兵制には、徴兵される若い世代にとって一つの巨大なメリットがあると考えないわけにはいかない。
そのメリットとは、「社会の年功序列をバカにする根拠を得る」ということである。
徴兵制が開始されれば、若者は軍で訓練を受け、いずれ一般社会に――職場へと帰ってくる。
そしてそこにいるのは、軍隊経験のまるでない年長者である。
同じ徴兵と訓練を受けて同志的感覚を持つ若い世代からすれば、お偉いさんや上司や先輩に対しても、
「オマエら徴兵にも行かなかったくせにエラソーにしてんじゃねぇよ」と感じるのは当然のことではあるまいか?
しかも彼らは、現在の「元自衛官」のように社会的に希少な存在ではなく、世代まるごとの一大勢力である。
これが戦争にでも行こうものなら、「実戦経験のないヤツらが何でオレらより上なんだ? 何でアイツらの指図を受けるんだ? 何でチャラチャラいい暮らししてるんだ?」と感じるのはますます必然である。
はっきり言って徴兵制には、若い世代の下克上意識を高め、社会の年功序列を転覆させる効果があると思う。
その意味で徴兵制に反対すべきはその対象となる若者ではなく、対象とならない中年以上の高齢者たちであると思える。
もっとも、何が何でも人間関係に上下関係を設定したがる(それが道徳的だと思っている)日本人の悪癖からすれば――
軍隊経験で先輩であるかないか、軍在籍時に二等兵だったか一等兵だったかで、また新たな年功序列意識が形成される怖れがないではない。
しかし、徴兵制導入から二十年くらいの間は、「徴兵世代」が日本の年長者支配を破壊する力になることは期待できるような気がする。
むろん、軍隊生活には例によってイジメだのなんだのが付きものである。
ただそれは、軍隊生活のない今の時点でも学校や職場で起こっているのと同じことだ。
徴兵のない世界で生活し働いていても、先日の「人身事故で電車が止まり、乗客に詰め寄られて『もう嫌やねん』と飛び降り自殺を図った車掌」みたいなことは普通に起こっているのである。
tairanaritoshi-2.hatenablog.com
これに比べれば、徴兵を経験して「自信」と「徴兵非経験者(そこらの年長者)をナメる気持ち」を身に着けて社会に戻ることは、そんなに悪いことでもないかもしれないと思えてくる。