4月13日から14日、アメリカ・イギリス・フランスの連合軍が、ミサイル約100発と航空機による空爆によってシリアを攻撃した。
標的は化学兵器の研究所・指令所・貯蔵施設のみだという。
シリアのアサド政権は自国民(の反政府派)に対して化学兵器を使用したと断定されており、アメリカのトランプ大統領はこれを「モンスターの仕業」と弾劾している。
一方でアサド政権を支援するロシアの国防省は、ロシアの配備した防空システムによりその大部分が撃墜されたと「独自の分析」を発表している。
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ロシア国防省によると、その「大部分のミサイルを撃墜した防空システム」とは、いずれも30年以上前のソ連時代に開発されたものだそうだ。
そんなのでも米英仏のミサイルを阻止できる――
と言いたいのだろうが、日本人なら誰でもこれを「大本営発表」と感じるはずである。
これはいくら何でも、フカし過ぎではなかろうか。
ところでアメリカにとってシリアのアサド政権の打倒というのは、長年の懸案であった。
2003年のイラク戦争でイラクのフセイン政権を打倒したアメリカ(ブッシュjr.政権)は、そのまま次はシリアを攻撃するのではないかとも言われていた。
しかしそうはならず年月は過ぎ、途中で「イスラム国(IS)の乱」とかいうのもあって先送りされてきたのだが――
イスラム国が崩壊し、アサド政権が内戦にいよいよ勝利しつつある今になって、ようやく攻撃に踏み切ることとなった。
(もっともシリアへのミサイル攻撃は今回が2回目で、それもアメリカ国防省は「一回限りの攻撃」と言ってはいるが……)
もちろん、いかにロシアが撃墜した撃墜したと言い立てようと、米英仏の連合軍にアサド政権ごときが勝てるわけがない。
次はアメリカの海兵隊あたりが上陸して地上戦が起こるか否かが焦点となるが、しかし今のところはそこまでエスカレートする模様もないようだ。
やっぱりこれが今のアメリカの常道と言えば常道なのだが、空爆で支援して反政府軍が「自力で」アサド政権を倒す、という展開に持っていきたいのだろうか……
そしてアメリカと言えどもなかなか地上軍を送り込まないのは、ミサイル攻撃だけで「お茶を濁す」ことになっているのは、言うまでもなくシリアのアサド政権の後ろ盾にはロシアが付いているからである。
だが反面、アメリカがロシアと衝突するのを恐れているとするなら、それ以上にロシアはアメリカと衝突するのを恐れているはずだ。
アサド政権は言うまでもなく「世襲のアサド王朝」であり、今のアサドは父から独裁者の位を受け継いだ二代目である。
ただその役職が大統領と呼ばれているだけで、実質は国王や皇帝と変わらない。
これは北朝鮮と同様であって、「東の北朝鮮、西のシリア」と言えるほどソックリの国だ。
違いと言えば、北朝鮮が弾道ミサイルと核の開発を行っているのに対し、シリアは化学兵器に注力していることぐらいだろうか。
だから当然、シリアへの攻撃は北朝鮮をビビらせる効果がある。
世襲独裁のシリアが攻撃されるなら、北朝鮮もそうなっておかしくない――
とは、一般市民でも簡単に連想できる。
ましてや金正恩ら北朝鮮の指導部だったら、なおさら身に染みて感じるだろう。
そしてロシアが「後ろ盾になっている」とされる国とは、まったくこんなのばかりなのである。
ロシアが支援するというのは世襲独裁の、加えて世評の芳しからぬ「問題国家」ばっかであり、もうこれは、好き好んでやっているのではないかと感じるレベルだ。
こんなのはロシアにとって本意でないのかどうかは知らないが、国際社会のイメージが悪いのは当然である。
こんなことばかりやってるから、いつまで経ってもロシアはまともな先進国と思われることがないのである。
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むろんロシアが化学兵器を使うようなアサド政権をそれでも支援するのには、理由がある。
今の中東にはロシアが拠点にできる国はシリアくらいしかなく、これを失えばロシアの中東における影響力もすっかり失われるからである。
アメリカの行ったイラク戦争は、一般には(日本では?)「失敗」だったと見なされている。
戦争自体には勝利したがその後は泥沼の鎮定戦を戦う羽目になり、なかなか国内を安定させられなかったイメージが強いからだ。
しかしやはり、イラクがアメリカの影響下に入ったことには、とてつもなく重要な意味がある。
トルコもサウジアラビアもイラクもアフガニスタンも、もちろんイスラエルも、アメリカの勢力圏ないし同盟国・友好国だとなれば――
中東でロシアが割って入る余地は、シリア以外ではイランくらいしか残されていない。
なのにイランがロシアと同盟関係に入る余地は、それこそほとんど考えられない。
だからロシアは、たとえどうしようもない問題児だろうと、シリアのアサドを支援しなくては中東での拠点を失ってしまう。
はっきり言ってロシアは、こういう状況に追い詰められているのである。
思えば旧ソ連は、アフガニスタンに侵攻したのが運の尽きだったとも言わば言える。
ロシアが中東に進出しようとするとき、ロシアにとってロクなことがないというのは、もう歴史的パターンのように感じられる。
たぶんロシアは、シリアでまたロクなことがないだろう。
アフガンは失い、次はシリアを失い、とうとう中東での影響力を失うにとどまらず、ロシア本国の崩壊に繋がったとしても、何も驚くことはない。
(こういうのを「二番煎じ」とも言うのだろう。)
だから無責任な第三者として言えば、ロシアは中東から手を引いた方がいいのである。
中東はロシアの鬼門であって、そんなところに国力を注ぐより他の方面に投資した方がよっぽど実りがあるだろう。
(具体的に言えば、東ヨーロッパのことだ。)
ロシアはもう(幸いにも)世界を二分する超大国ではないのだから、いいかげん身の丈に合った企業戦略を採用しないと、いつまで経っても勢力圏と影響力を失い続けるだけになってしまうだろう……